買付け価格は割高ではない?徹底分析!島忠争奪戦でニトリHDがはじくソロバン

椎名則夫(アナリスト)
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島忠経営者は株主のエージェントとして振る舞っているのか

 最後に一点。島忠の経営陣はなぜDCM HDの提示価格4200円が島忠の一株あたり純資産(BPS)4661円(2020年8月期)を下回るレベルだったにもかかわらず、島忠の株主に対してDCM HDによる買付けに応募することを推奨したのか(編集部註:株価をBPSで割った株価純資産倍率<PBR>が、本件のように1倍未満だと企業の解散価値を下回ると見ることもできる)

 純資産額が解散価値を的確に表しているとは言い切れないが、その目安になることは間違いない。このため、島忠の株主は島忠の経営陣に対して「清算した方が価値が大きいはずなのに、一体なぜこの安値を容認するのか」と不信感を抱くのが自然だろう。「そもそも買収の標的になったのは、島忠経営陣が株主から預かる株主資本を十分に有効活用できず株価が低迷していたからではなかったか。」島忠株主の思考回路はこうならざるを得なくなる。

 もし島忠がDCM HDの買付け価格を4661円以下では認めないと交渉していたら、あるいはDCM HDの買収提案に対して賛成表明を留保していたら、ニトリHDの反応もひょっとしたら変わっていたかも知れない。

 DCM HDははじめからニトリHDが参戦したら深追いしないという腹づもりだったようにも思われるが、それはそれ。島忠経営陣は島忠の株主目線にもう少し寄り添っておくべきだったと考える。これは今後のM&Aで標的にされる企業経営者の振舞い方について、良い教訓になるのではないだろうか。

 

プロフィール

椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師

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