死に体なのにアパレル産業の倒産が少ない理由…TOBによる金融主導の業界再編激増とこの先起こること

河合 拓
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「死んでいる」の定義はキャッシュフロー・ネガティブ

 それでは、「死んでいる」とはどういうことをいうのか。私は、いろいろな企業に出向くのだが、こうした初歩的なことさえ分かっていない人が多いのに驚くことが多い。企業には、財務3表といって、損益計算書、貸借対照表、そして、キャッシュフローの3つがあるのだが、この中で最も大事なのがキャッシュフローだ。しかし、損益計算書と貸借対照表は読めるが、キャシュフローが読めない人は以外と多い。

  キャッシュフローというのは、分かりやすくいうと、あなたの「お財布」の中身である。あなたに100万円の貯金があって、毎月の給与が30万円だとしよう。

 生活費が25万円であれば毎月5万円残る。これをFCF (フリーキャッシュフロー)という。あなたがもし、給与が30万円なのに生活費が35万円かかっていたらどうなるか。毎月5万円づつマイナスとなり(これをキャッシュフロー・ネガティブという)、100万円の貯金を切り崩し、20ヶ月後には破産することになる。簡単な理屈だ。

 しかし、世の中の「企業再生」を自称している人は、このようなキャッシュフロー・ネガティブの人にお金を貸すことが「企業再生」だと信じているのだ。

  そんなバカな、と思う人もいるだろうが、例えば、前述のアベノミクスではどうか。国債を乱発し、延命策まで持ち込み、公共事業で弾みをつけるまではよかったが、3本目の矢が的外ればかりで、国のFCF (プライマリーバランスという)はマイナスのままである。企業もそうで、本来、キャッシュフロー・ポジティブ(お金が毎月残るように、リストラする、経費節減する)にしなければならないのに、それをせずに取引先にお金を貸そうとしている。その理由はシンプルだ。商社の場合は売上が上がるほど出世するし、銀行では貸し出しが多ければ、これまた出世するからだ。

  銀行は、成績を上げるため、または今回のコロナのような特殊事情により意地でも貸し出しを行うわけだが、結果的に回収不能となった債権を回収するためお金をもっている企業と持っていない企業をくっつける(合併させる)ということをしている。そうすれば、お財布は同じになるから、めでたく債権回収ができるからだ。古くは、借金まみれのサンエー・インターナショナルと、必要以上の貯金をして村上ファンドから投資家に配当しろと迫られた東京スタイルの合併もそうした事情が裏にあると私は見ている。

 「なぜ、この会社がアパレル企業などを買うのか?」というケースは山のようにあるが、実際に話を聞いてみると「実は、銀行に頼まれたのです」という答えを何度も聞いた。それをメディアは「ライフスタイル戦略だ」などというのだから思い違いも甚だしい。

円が安くなれば株価が上がる

zoom-zoom/ istock
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 国債乱発によりマネーストック(市中の通過流通量)が急増すれば、円安になる。無人島の島にマンションが一棟あって、お札が100枚あったとする。そのマンションの値段が50枚だったとき、お金を200枚に増やせば、貨幣価値は半分になるだろう。これが、インフレのメカニズムだ。日経225などの株価は、ファーストリテイリングなどを除いて、ほとんどが輸出企業で構成されている。だから、円が安くなれば輸出が増えて株価が上がる。しかし、ユニクロとて、もはや日本より海外の利益のほうが多いのだから、ドメスティック産業といわれるアパレル企業でもやはり株価はあがってゆくのだ。

  コロナによるマネーストック急増は、別に日本だけに限ったことでなく、世界中の先進国で起きている。緊急事態なのだからしかたない。こうしたときに、国の政策として企業倒産を回避させる政策には私は賛成だ。しかし、将来の借金はいずれ返さねばならない。
 いち早く、金利を上げたのは米国の新大統領、ジョー・バイデン氏だった。金利を上げるということは、お金がお金を生み出すということである。つまり、弱くなった貨幣価値を再び強く戻す効果がある。金利が上がれば、例えば、借り入れの多い企業の返済額は増え、変動金利で住宅を購入した国民の借金は増えるが、お金を貸すことをビジネスとしている銀行は業績が好転する。金利が上がって銀行の株価が上がっているのはそのような理由であり、3万円を超えた株価がいきなり下がったのは、毎度のことながら米国追随の日本の金利も上がるのではないかという思惑からだ。

 しかし、こうした人為的な操作は、企業の、そして国の産業のファンダメンタル(企業や産業が持つ本質的な強さ)の強さや弱さに必ず収斂されてゆく。分かりやすくいえば、こうしたカンフル剤は一時的なもので、必ず本来の姿に徐々に戻ってゆくのである。

 

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