死に体なのにアパレル産業の倒産が少ない理由…TOBによる金融主導の業界再編激増とこの先起こること

河合 拓
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5年後、我々のボスは中国人になる

 このように、日本株が上がっているのは日本経済のファンダメンタルが強いからでなく、事情があるためだ。国は経済対策とコロナ禍からの復興のためにお金を大量に使っている。乱発された国債を処理するためには、長期的には税金を上げるか金利を上げるか、あるいは、神風が吹くしかない。東京オリンピックを是が非でもやりたいのは、神風を吹かすためだろう。

 しかし、本来、政策というものは、神風やドーピングに頼るものでなく、持続的に企業が成長してゆく仕組みをつくることだ。ゾンビ企業を生き永らえさせても産業の新陳代謝は起きないだろう。

 日本には、東京オリンピックという神風が吹けば一時的に経済は復活するだろうが、その先にどのような企業が国の成長を牽引するのか、私には見えない。自動車は、ベンツ、BMW、アウディやフェラーリ、ポルシェのような趣味性の高いクルマ以外は、レンタル会社が購入しシェアされる時代が来るだろう。また、AppleGoogleのような卓越したAI技術をもつデジタルガリバーが無人運転自動車を開発し、トヨタやホンダなどの伝統的クルマ産業もディスラプトされる可能性が高い。

 プレーステーション5が好調のソニーとて、デバイスを各家庭に配って、ソフトも売るビジネスも私にはオールドエコノミーにしかみえない。むしろ、Apple Arcade (Appleのゲーム)のように、スマホをデバイスとして、クラウド上でハイテク処理を行う方が理にかなっている。つまり、ゲームも音楽もすべて、企業のシステムのようにクラウドになるわけだ。

 つまり、日本から世界に名だたる企業が育つ余地が見えないということなのだ。日本人はまだ「アジアではダントツに先進国」「世界でも第三位の国である」と勘違いしてるのではないか。私は、潰れそうになったシャープに台湾の鴻海が入って見事に立て直した様をみて、「日本はとうとう台湾にも経営で負ける時代になったのか」と感じた。

 弱い国の通貨は弱くなる、つまり円安に振れる。だからといって、日本から何を輸出できるのだろう。もともと日本には資源がないため、後進国から原料を買って、日本で加工し輸出するというのが国家戦略だったはずだが、気がつけばスマホや家電は韓国か中国製になっていても誰も気にしていないし、クルマは都心部ではシェアになっている。

  当然、弱体化した日本企業は順次外資系企業やファンドに買収されてゆくだろう。実際、私は、既にデューディリジェンス(企業価値評価)に入っているアパレル企業をいくつか挙げることができる。ちなみに日本のコンサルティング会社は、ろくにアパレルビジネスのメカニズムを知らないため、適当な評価をしているのが実態だ。

  このままでは本当に日本のアパレル産業は、川上だけでなく川下まで外資になってしまう。アパレルという産業そのものが日本から消滅する時代が来る。

  適当に映画などをみて「ファンドは怖い」など、イメージでものを語る前に、資本主義のルールを学ぶべきだ。怖いことをしなければならないほど産業をダメにしたのは一体だれだったのか。根本的に産業に競争力をつけるためにはどうしたらよいのか。われわれはいま一度、考え直す時がきたのだと思う。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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