日本人の生活を服で変えるも「選択肢」を奪った!?ユニクロの功罪とは
「ユニクロ」の強さが際立ってきた。ユニクロおよび社名であるファーストリテイリングは、30年前、その名前さえ知られていなかったぐらいだが、今では世界を代表するアパレル企業になってしまった。本日は、「ユニクロの功罪」をそれぞれ3つずつ論じてみたいと思う。
ユニクロの功績1「経営力」がある日本企業があることを明らかにした
まずはユニクロが果たした功績から見ていきたい。
今から約四半世紀前の2000年4月。ハーバード大学のマイケル E ポーターは、その著書「日本の競争戦略」(ダイヤモンド)の中で、バブル沸き立つ日本に独自の視点から危機を感じ、ごく少数の企業だけがGDPを牽引している日本の産業構造、オペレーション偏重からくる戦略の誤謬などを書き上げた。
その中では、アパレル産業についても言及している。
結論だけいえば、「アパレル企業には戦略がない」。オペレーション偏重主義により、改善を繰り返し、昔のやり方を続け国際競争力のあるアパレル企業は皆無となったと書いている。
前回の論考のように、外資に輸入税を課すことで日本市場を閉鎖したものの、ムダに終わった。結果、今、日本の総生産量は、総投入量の1.5%程度まで落ち込んでいる。つまり、ものづくりはほぼ全てがアジアの途上国に移り、日本ではアパレル企業が小売化し、ブランディングやマーケティングだけが残ってしまったことになる。
これを「産業の空洞化」という。
日本の繊維・アパレル産業はその後、「中国でも生産単価が高い」となり、さらに南進をすすめバングラデッシュやミャンマーにまで生産拠点を移した。しかし今は、「インバウンド x 円安」という効果もあって外国人の爆買いが続き、さらに、今週は春節(中国の旧正月)のため、大量の中国人が訪日している。ちなみに私は先日、自宅を売却したのだが、購入者は中国籍の人だった。その人曰く、自国では「あまった金」を増やすことはできないから、海外不動産で安い物件があれば買っているとのこと。完全な投資対象ではあるが、この円安のおかげで爆買いにブーストがかかったようだ。
前置きが長くなったが、ユニクロの功績、その①は「経営力」がある日本企業があることを明らかにした、である。
50件以上のビジネスデューディリジェンスをやってきた経験からいって、昨今のプライベート・エクイティ(PE)・ファンドは、良い経営者以上に良い産業界、よいビジネスモデルに目をつける。最近はPEファンドがアパレルをM&Aすることは減ってきたが、それは、案件がなくなったからではなく、あまりに「ボラティリティ」(不確実性)が高いからだ。
あのユニクロでさえ「今年の冬は暖かかったため」というように、天気やトレンドに大きく影響を受ける。
逆に、PEが「AIをつかったソリューション開発」の仕事を進めた場合、投資の意思決定の難易度は一気に下がる。これからのAIのポテンシャルを考えれば業界としての魅力があることは明らかだからだ。
そうなると、「経営力」という曖昧な言葉の存在さえ疑ってしまう。結局は、プレイヤー達が戦っている場所が上りのエスカレーターにのっているのか、水平の平地にあるのか、はたまた、下りのエスカレーターにのっているのかによって、そこで戦う全プレイヤーが等しく受け入れざるを得ない事実となることになる。
しかし、そんな下りのエスカレーターに乗っていても、我関せずで圧倒的な強さを見せるのが、ユニクロなのである。
ちなみに、アパレル産業が下りのエスカレーター状態なのは日本に限った場合であり、世界では拡大が続く「上りのエスカレーター」である。
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