物流、モバイル強化の万全な布石に見えるも…資本業務提携した楽天と日本郵政に多難が待ち受ける理由

河合 拓
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2021年3月12日、楽天(東京都/三木谷浩史社長)は第三者割当増資にて日本郵政グループから1500億円を調達した。第三者割当増資というのは、特定の第三者に限定して新規発行株式の引き受け手となってもらい、資本注入を行うことをいう。なぜ、三木谷氏は日本郵政に第三者割当増資を行ったのか、また、その戦略は各種メディアが報道しているように後発参入である楽天を、NTT docomo(ドコモ)、au、SoftBankにならぶ四大キャリアへ導くものなのか。私の分析をご紹介しよう。

楽天のロゴ
楽天と日本郵政の資本業務提携は、国内小売・携帯市場をどう変えるか?(2021年 ロイター/Sam Nussey)

楽天の地上戦参入が本格化

 2020年に上梓した拙著『生き残るアパレル死ぬアパレル』(ダイヤモンド社)で、楽天はリアル店舗にM&A(合併・買収)をしかけ、空中戦から地上戦を統合したオムニチャネル戦略を実現し、楽天王国をつくり上げると予言した。実は、今回の増資は日本郵政グループからだけでなく、中国ネット大手のテンセント・ホールディングスの子会社、米小売大手のウォルマートからも、それぞれ657億円、157億円を調達している。

  テンセントと聞けば、「ああ、楽天は中国進出をねらっているのだな」と、なんとなく分かるが、米国ウォルマートと聞いて「あれ」と思った人はいないだろうか。そう、ウォルマートは2020年まで西友を傘下に収めてきた米国企業である(現在の出資比率は15%)。すでに楽天は米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)と組んで西友を買収し、大きな伸びが期待できるネットスーパーの強化をもって、地上戦に出ていたのである。これらはまさに、私の予言通りだったわけだ。通販企業のニッセンを配下に持つセブン&アイ・ホールディングスの空中戦が、ほとんど成功したとはいえず、イオンのネット戦略も存在感が依然薄いいま、楽天のようなネット企業の空中からの地上戦(リアル店舗の買収)参加が、「帝国設立」に最も近いように思う。

 

私だけが知りうる、楽天と日本郵政の提携がデジャブの理由

 日本郵政といえば、古くは小泉純一郎元首相の郵政民営化にたどり着く。詳しくは関連書籍などに譲るが、郵政事業はこれまで国民の血税を自由に使い赤字事業を次々と行うなど問題が起きていた。そこで、資本主義の厳しい競争にさらすため、民営化を行った後2015年に東証一部に上場したのである。具体的には、持株会社である日本郵政の下に銀行業務を行うゆうちょ銀行、保険業務を行うかんぽ生命保険、そして郵便(宅配)業務の日本郵便の3社がぶら下がる。

 いままで金の心配も無く、ある意味、いい加減な事業計画で好きなようにやってきた人達が、投資だ価値算定だ、マーケティングだなどといっても理解さえできないように思う。仕組みを変えても人はついてこない、典型的な事例だった。しかし、このように鳴かず飛ばずだった同社の事業を浮上させるため、政府はあらゆる手をつくしてきた。

  当時、三越伊勢丹ホールディングス(東京都)が業績不振の関係会社再建を本格化するため、「徹底的に調べ、日本で最も信頼できるターンアラウンドマネージャ」として私に声がかかった。これは、三越伊勢丹のカタログを全国に24000店舗もある郵便局を利用して販売し、両社の業績を浮上させるという戦略だった。どこかで聞いたような話ではないか。そう、私は今回の楽天と日本郵政の提携がデジャブでならない。

 

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