SPA企業を養分にする!勝ち組が次々移行する「ノン在庫マッチングビジネス」とは何か?

河合 拓 (代表)
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SPA万能論はいまも絶大に支持されている。当事者であるアパレル企業のみならず投資家もそうだ。アパレルに限らず広く投資対象を決める時、投資先を「SPAか否か」で判断することが多い。しかし、SPAは在庫リスクを抱えていることを理解していない。アパレル企業が破綻するのは、ほぼ例外なく過剰在庫が原因なのだ。そしてSPA企業は、新たな勝ち組ビジネスモデルの養分になってしまう。今日は、SPA企業が持つリスクと新たな勝ち組企業のビジネスモデルについて解説したい。

metamorworks/istock
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SPAだから強いのではない
SPAが危険な選択になるケースと理由

 しかし、ユニクロやニトリなどはどうなのだ。あの業態はSPAではないか、という反論が聞こえてくるが、彼らが強いのはSPAだからでなく、扱っている商品レベルが価格に比べて非常に高い。要はコスパがよいことと、ファッショントレンドに左右されない無難なデザインを採用しているからだ。つまり、SPAだから強いのではなく、ブランドとして強い企業がSPAなのである。因果関係が逆なのだ。SPAで負けている企業は無数にある。ユニクロのブランドが今の世の中に合っていることは先週の論考で分析した。勝ち組企業は社会の鏡のように私たちを取り巻く環境と合致している。

 SPAとは、「製造小売業」と訳されるが、元々の英語は“Speciality store retailer of Private label Apparel”。そのまま訳せば、「自主ブランドを持つアパレル専門店」という意味になる。それが、製造小売業と誤訳され、さらに「生産設備を持って自主ブランドを展開する企業がSPAだ」という具合に、本来の意味を矮小化してしまったのだ。「自前でPB(プライベートブランド)を持てばSPA」なら自前で商品をつくってしまえと商社に生産委託する。多くのアパレルには生産機能がないため、商社のOEM機能をつかって単なる委託を「ファブレスメーカ」という具合に拡大解釈し、自主ブランドをだしてSPAと自らを呼ぶわけだ。

 この場合、ナショナルブランドを扱えば、原価率が高くなり利益がでないから自主ブランドのSPA業態にするという考えが根底にある。しかし、委託する商社は自前でコレクションを持ってアパレルに提案し、多くのアパレルはパターンもひけなければ自分で縫製仕様書も書かない。商社のつくったサンプルを若干修正して自主ブランド化しているに過ぎない。だから、生産機能がないアパレルでも簡単にSPAになることができるのだ。

 しかし、こうしてできたSPAは、確かに原価率は非常に低くなるが「在庫リスク」を持つことになる。アパレル企業が破綻する最大の原因は「過剰在庫」だから、圧倒的競争力がないままSPA化をすれば余剰在庫で損失が拡大する。この在庫コントロールができなければSPAは極めて危険な選択になる。

 

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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