アパレルビジネスにおける実践的なAI活用3パターンと生成AIの活用術とは

河合 拓 (代表)
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やや熱が落ち着いたとはいえ、AIを活用した事業改革というものに対して、無限の可能性を感じているアパレル業界関係者は少なくない。特に「生成AI」は、あたかも人間が文脈を判断し、その文脈に沿って文章や画像などを自動的にアウトプットするもので、これへの期待は大きい。例えば、褒めれば喜んでいるような返答がなされ、否定するとムッとしたような回答を返してくるので、「裏側に実際の人間がいるのではないか」と錯覚するほどだ。
しかし、こうした技術がアパレルビジネスのどこに役立つのかという話になると、まだほとんどの人が具体的なイメージを持てていないようだ。SaaS(サービスとしてのソフトウェア)型MD(マーチャンダイジング、商品政策)にAI予測は通用しないことは論理的に実証済みだ。MDは個別企業の余剰在庫やブランドの癖などにより変化するし、すべての服はユニクロのベーシック衣料と競合関係にあるからだ。
それでは、この技術は枯れてしまったのかというと、私はそうは思わない。いわゆるAIベンダーが業務に精通していないことと、事業をしている者がAIに過剰な期待を抱きすぎているから、AIをビジネスに適切に活用できていないのだ。AIベンダーと小売の実務、双方を経験した私の考えるAIの未来について論じてみたい。

grinvalds/istock
写真はイメージです(grinvalds/istock)

AIMD戦略そのものには使えない、単純な理由

 AIMDには使えない――

 残念ながらこれは、確定した事実である。MDというのは「5適」といって、適価、適品、適所、適量、適時を正確にSKU単位で計画することだ。今のAIは、ある企業のブランドが持つ、「過去からの商品動向をみながら商品の売れ行きの動きの傾向をみて、将来を予想する」というものだが、決定的にこの技術に足りないのは、競合の動きをみていないということである。例えば、統計学的処理をおこなって将来のMD計画を立てたとする。おそらく、AIが示す傾向は正しいのだろうが、視点を消費者に変えれば、消費者は、そのブランドだけで買うということはない。

 日本人のブランド個客率は20%程度だから、80%はブランドホッピング(あちこちのブランドを見比べる)をする。そして、ユニクロに似た商品がないかと考え(ユニクロが、日本のブランドの基準値になっている)、ユニクロに似たような商品があればそちらを買うし、ユニクロになくても、他の競合ブランドの方が価格が安い、あるいはデザインが秀逸な場合、そちらに購買が流れるのだ。

 つまり、MDを正確に予測しようとするには、世の中の全てのブランドの製品動向を調べなければならないのである。だが実際は、消費者がレコメンド機能を使って、恐ろしいほどの数の商品比較を行っているわけだから、結果としてあたらないのである。

 そこには、「競合」という視点がぽっかり抜けているからだ。

 

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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