イトーヨーカ堂とギャップがハマった現場弱体化の「落とし穴」とは

小島健輔(小島ファッションマーケッティング代表)
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世はデジタル・トランスフォーメーション(DX)だAIだとデータマイニングに突っ走っているが、デジタルのコマンドはフィジカルのアクションに落とし込めない限り実効性はない。現場の実態と乖離したデータマイニングは却って業務効率を低下させるばかりか、現場を思考停止に追い込み顧客から乖離して事業の失速さえ招きかねない。「ブームが加熱する中、ちょっと立ち止まって頭を冷やし、デジタルとフィジカルを一致させて現場の活力を高めるべきではないか」と小島ファッションマーケッティングの小島健輔代表が緊急提言する。

デジタル」は「フィジカル」とイコールではない

 インターネットが黎明期にあった前世紀には通信インフラも脆弱で、パソコンのリターンキーを押しても本当にコマンドが実行されて相手に電送され、現実の手続きや発注が済んだのか不安に思ったものだが、今日ではオンラインにせよローカルネットワークにせよ、「デジタルでコマンドアクション=フィジカルでも実行」と誰もが信じて疑わなくなっている。だが、もしかすると、それは錯覚かもしれない。

 インターネットでもローカルネットワークでもコマンドアクションの電子信号は即時に相手側に伝わり、フィジカルでも間髪入れず実行されると錯覚しがちだが、回線やサーバーにトラブルが生じたりセキュリティ設定に引っ掛かったりプロトコルが食い違えばエラーになり得るし、即時に伝わってもフィジカルの実行が遅れたりパスされたりするリスクもゼロとは言えない。ましてや相手と信じて疑わないサイトやメアドが「なりすまし」であれば、こちらの意図とは異なるコマンドが実行されてしまう。

 テジタルな伝達プロセスでもエラーやトラップがあり得るが、フィジカルの複雑なプロセスでは勘違いや行き違いが容易に生じる。DXを推進する側がフィジカルの工程を正確に掴まないままデジタルの工程を組めばトラブルの発生は必定で、下手すればフィジカルのラインが止まりかねない。実際に、ECシステムのリプレースでは数週間から数ヶ月間もシステムが停止し、その間の売上が無くなってしまうという事件も度々発生しているし、物流システムの組み替えでも予期せぬトラブルや遅滞が発生するケースが少なくない。

フィジカルに潜む「未必の錯覚」とは

 デジタルではコードのプログラミングをミスなく積み上げないとコマンドは作動せず(近年は中身の工程を見ないノーコードが拡大しているが)、連携するアプリ間でプロトコルやセキュリテイの食い違いがあればバグってしまうから、何度もテストを繰り返してデバック(ソースコードのエラー修正作業)するのは常識だ。ところが、フィジカルでは本部や上司が指示命令すれば現場や部下は忠実に履行するという「未必の錯覚」が横行しており、実行段階のプロセスやスキルの検証が等閑にされる事が多い。

 本部や上司が指示命令(コマンド)の細かい手順と個々の作業スキルを現場や部下にプログラミング(マニュアル化と研修)するのは稀で、現場に定着している手順とスキルで何とか執行するだろうという「未必の錯覚」(判っているけど目を瞑る)で誤魔化すケースが大半だから、実行の精度やスピードがバラついたりミス(バグ)が頻発するのは必定だ。そんな初期の混乱は現場対応で解決していけば済むという感覚なのだろうが、デジタルの世界なら徹夜の修正作業の果てに責任者の首が飛ぶ。

 本部や上司の「未必の錯覚」には責任回避の保険まで掛かっているから始末が悪い。指示命令を現場なりの解釈で従来の方法に翻訳し混乱を回避してくれるだろうとか、現場が効果的な手順やスキルを編み出してくれるだろうとか、医師が用量・用法を指示しないで投薬するみたいな無責任な指示命令が横行している。それで上手くいけば本部や上司の成果、上手くいかなければ現場のスキル不足と誤魔化されてしまうのだろう。

 こうしてみると、デジタルとフィジカルの不一致より、フィジカルの組織的実行プロセスの方にはるかに大きな問題があるのではないか

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