デジタル化における店舗の役割を再定義する ユニクロが世界の大都市に店を建てる理由

河合 拓
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未だに理解されていないオムニチャネルの戦略

 

 さらに、大きな誤解と言えるものが、オムニチャネルによるネットとリアル店舗の相互送客についてである。私は、業績不振のアパレル企業から、「うちはオムニチャネルをやっているのだが、効果が無い」という話を何度も聞いた。

 彼ら含め多くの企業が、「店舗に人が来ないからネットから送客する」「ネットに人が来ないから店舗から送客する」という戦略はとっている。

 だが、それがうまくいかないのは、至極当たり前のことである。 

 人気の無いブランド、そもそも人が来ない店舗や、人が見もしないネットのブランドが、誰を相互送客できるというのか

 「これからは、オウンドメディアの時代だ」と信じ、高い資金を投下して誰も見ないマーケットプレイスを作る。いくつかのアパレル企業が、オウンドメディアでお客を集め、自社ECサイトに誘導して購入してもらうという、2ステップ(一旦、コンバージョンが発生しないコミュニティに送客し、その後で購買誘因させる手法)マーケティングを導入しようとしているが、その「コミュニティ」は、よほど斬新性があり人々を魅了するものでなければ人は集まらない

 また、大金を投じて人を集めても、サイトを盛り上げ続けることは至難の業だ。あのFacebookでさえ、「シニアの日記」と化しており、移り気な若者は、すでにインスタやLINEに移動し、やがてスマホで簡単に動画が上げられるようになればYouTubeTikTokがそれに代わる。アメリカ企業はこうした動きをよく研究し、M&Aでコミュニティを買収し自社グループに送客しているが、日本は既に時代遅れとなったオウンドメディアに固執し、なんとか動かそうとさらに無意味な投資を続けてゆく。その結果、オウンドメディアは「サクラだらけではないか」と思われるような場になっている。

 実際に、私が写真を投稿すれば、山のように女性から「素敵!」と反応が来る。いい気になった私は、試しにインスタに投稿したのだが、誰も反応しない。ここまであからさまになれば、消費者と企業のだまし合いは、結局は消費者の勝利となる。

 つまり、誰もいないネットからリアルに送客する、あるいはその逆もしかりで、結局、そのブランドに人気がなければ、何をやってもダメなのだ。ユニクロのオムニチャネルが成功している理由はシンプルで、国民のほとんどがヒートテックや、カシミヤセータが欲しいからだ。つまり、私が10年前に提唱した、バリューベースの「ブランド化」(広告代理店の人達が説くブランド化でなく、しっかりとした骨太な価値を持つブランド化)こそ、真っ先にアパレル企業が取り組むべきなのである。

 バリューベースの「ブランド化」については、すでに絶版となったが、Kindleで読める拙著「ブランドで競争する技術」(ダイヤモンド社)に詳細に記したので、興味がある方はそれを読んでいただきたい。

リアル店舗の最大の役割は広告効果

monkeybusinessimages / iStock
リアル店舗の最大の役割は広告効果(monkeybusinessimages / iStock)

 消費者調査をやれば分かるが、こうした情報の洪水の中を泳いでいる我々に、もっとも効果的に「認知度」と「好感度」を植え付ける方法は、世界の最も高い立地に、最もでかい店を作ることだ。立地が良ければ通行量は増え、サブリミナル効果(同じものを何度も繰り返し見ることで脳裏に残像が残ること)で認知度は上がる。ましてや、最も高い立地に、大きな店を作れば、こちらからお金を出して広告をうつ必要はなく、メディアから取材が殺到する、いわゆる「戦略PR」(お金をだして広告を出すのでなく、メディア側から取材される状況を戦略的に組み立てること)にもなる。ユニクロが、パリやニューヨーク、銀座など地価の高い立地にどでかい店舗を出すのはそれが理由なのである。一流ブランドは、一流立地に店がなければならない。例え、それが赤字であってもだ。ブランドとはそういうものである。

 だから、広告宣伝費に1億円お金を使うのなら、好立地に2000万円の赤字店舗を5店舗出す方が良い。東京の表参道などは、その最たるもので、今は知らないが、私が関わっていた時代は、別名「赤字ストリート」と呼ばれていた。私は、そのことを日本事業を担当する某ブランド企業のゼネラルマネジャーに話したことがあるのだが、「構わない。それで、香港でジュエリーが山のように売れる。そのためには日本の好立地に店がなければならない」と彼は言っていた。確かに、インバウンドが増えて外国人が日本に殺到するようになり、表参道や原宿を歩いた彼らの頭の中に「某ブランドは一流」というイメージを残したことであろう。

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