デジタル化における店舗の役割を再定義する ユニクロが世界の大都市に店を建てる理由

河合 拓
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前回、売らない店が増えていること、それがサプライチェーンの短縮化を狙ったものであるものの、肝心のEC時代のリアル店舗の位置付けがまだ明確化している企業が少ない点について解説した。そして、デジタル化で広告宣伝費を増やすほど利益が減るメカニズムについても明らかにした。今回は、その続き、いよいよデジタル時代における店舗の役割とは何か、について説明したい。

米ニューヨーク5番街のユニクロ旗艦店
ユニクロが世界の大都市に大型店を出店する理由を、デジタル化の流れという文脈で読み解く(2020年 ロイター/Shannon Stapleton)

情報に対して受け身になる私たち

 スマホとインターネットの普及によって、私たちは気軽に情報にアクセスできるようになった。アプリはますます高度化し、ネットの世界にある良質な情報を集め、高付加価値を持つ情報に簡単にアクセスできるようなった。しかも、我々の閲覧履歴からAI が分析し、例えば、私の場合、アパレル、ファッション関係のニュースの中でも厳選されたものが毎朝提示される。

 ネット上ではキュレーターと呼ばれる水先案内人が登場し、テレビでは、「池上彰、林先生現象」と私は勝手に呼んでいるが、難解で難しい世界の情勢を分かりやすく解説してくれる人が人気を博している。こうしたハイテク技術とアナログ・プレゼンテーションのあわせ技で、人の情報に対するパッシブ(受け身)な態度はいっそう加速した。

 さらに、情報は、活字から動画へと主戦場は変化してきている。今では、BLOGなども消滅しかけ、VLOGという動画を使った自分日記が一般化してきた。この傾向は、やがて新聞や活字メディアにも波及するだろう。今、エグゼクティブ達は、早朝にスマホをアームバンドに巻いてYouTubeを「聞き」ながら、ジョギングを楽しんでいる。やがて、メディアは自社の記事を音声や動画で配信するようになり、エグゼクティブの朝のトレーニングのワイヤレスイヤホンには、日経新聞や読売新聞の記事が流れることになるだろう。満員電車で新聞を広げる昭和の風物詩はもはや人の記憶からも消えて無くなる。

CPA<LTVの公式が成り立たなくなった!

 しかし、一見、便利だと思われる「情報革命」は、私たちから「考える力」を奪っている。だから、民放の放送局が新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大の話題を止めると、人はコロナがなくなったと思って日本中を旅し、一転して一斉に「コロナ第3波」を報道すれば、国民が全員怖がり、また巣ごもりに戻るということが起きるわけだ。

 その結果、昔のマーケティングの教科書に必ず乗っていた

 CPA (1件の成果獲得にかかるコスト)< LTV (顧客生涯価値) 

 という公式は現実問題として成立し得なくなっている。

 まず、広告のレスポンスレートはすでに1.0 (1/100)を切っており、値引き以外のEメールは全く無反応になった。最近では、こうした企業側のディスカウントメールが山のように届き、それらのほとんどがゴミ箱に直行するようメーラーはセットされている。

 今、最も反応がよいのはLINEとインスタだが、それらとて時間が経てば広告公害になり、これ以上の商品は不要と思っている消費者に、さらに商品を売ることは極めて難しくなるだろう。今、広告で新規顧客を獲得するとなると、そのAcquisition costは、20,000円近くに上がっている。一方、度重なる値下げによって商品の利益率は減少。また、EC戦略を理解していない経営者によって、モールに節操なく出店を繰り返しているわけだから他ブランド商品との「横比較」にもあって、消費者離脱率は加速する一方だ。今、「うちには200万人の会員がいます」と豪語するアパレル企業が多いが、よく話を聞いてみるとハウスカードに登録してもらっただけで、200万人の半数以上がDEAD(休眠顧客)になり、競合に浮気をしている。このように、Acquisition costは、分母も分子も改善変数とはなり得ない。

 

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