ベンダーとアパレル双方が勘違い アパレル業界で需要予測が機能しないこれだけの理由と解決策

河合 拓
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11月26日付の日経新聞に、大手商社がデジタルを活用した「需要予測」で、サービスをアパレル向けに始め、適正発注を支援すると書かれていた。過去、幾度も警鐘をならしてきたこの議論の本質が未だに理解されていないことは嘆かわしいことだ。この極めてシンプルな過ちに対していい加減に終止符を打ちたいと私は思っている。
実は、アパレル業界には2種類の全く異なる需要予測がある。しかし、そのことを理解している人は少ない、というよりほとんどないといってよい。まず、多くの人が、アパレルビジネスのデジタル需要予測が他のリテールビジネスと比較し大きく異なることを理解していない。つまり、認識が大きくずれているのである。しかし、デジタル化による「需要予測」の技術は、アパレル企業に大きな利益を生み出すことは間違いないこともたしかだ。アパレルビジネスでデジタル化による需要予測をどうすれば有益に使うことができるのかについて、解説したい。

monkeybusinessimages / iStock
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スーパーやコンビニが使う需要予測が
アパレルでは無意味な理由

 私が、デジタル企業に在籍していたときの話だ。総合スーパー(GMS)などで活用しているデジタル需要予測をアパレル企業に導入したが「うまくゆかない」といってエンジニアとコンサルタントが悩んでいた。なぜ、衣食住の衣だけがこのようなことになるのか。少し考えれば分かるのだが、考えなければ優れた技術は何にでも応用が利くと思い違いをしがちである。

 あるテレビ番組に出演依頼されたときもそうだった。打ち合わせの段階で幾度も「アパレルビジネスにおけるデジタル需要予想の在庫適正化は、構造的に、一定条件下でしか成り立たない」と説明したのだが、当時、大はやりだったAIと、やり玉にあがっていたアパレルの在庫問題を紐付けたかったのだろう。AI を使えば余剰在庫問題は解決されるという過ったメッセージを出していた。

必需品と必欲品、供給過多と供給均衡

 アパレル商品というのは、無くても困らないがあった方が良い「必欲品」であり、スーパーマーケット(SM)などにおいてある水やお米などは、無くてはならない「必需品」である。そして、この二つの需要は全く異なる変数で動く。

 アパレル商品は、デザインやブランドという人の情緒的価値観に働きかけ消費者に購買を誘発する一方、水やお米は商圏内の人間によって一定量が (生きてゆくため確実に) 消費されるからだ。世の中が不況になれば、消費者は必欲品に対してのお財布の紐を締めるが、ライフラインである必需品はそのようなことはない。むしろ、節約のため外食が減り必需品の売上は上がることになる。コロナ禍において、スーパーの売上げが差したる悪影響を受けていないのはそのためだ。 

 つまり、アパレルなどの必欲品は、好不況、消費者のお財布事情、ブランドからデザインなど、複雑な要因が絡み合い、これらを漏れなく抽出しシステムのアルゴリズムを生み出すことは難しい。例えば、私は、あるアパレル企業と「白いブラウス」のトレンド解析の場に立ち会ったことがあるのだが、そのアパレルは「白いブラウスといっても、襟の形は数百通りあり、少し違えば全く売上が変わる」といっていた。白いブラウスの襟だけで、これだけのデザインパターンがあるのだから、それ以外の衣料品から、さらに、それらの着こなしパターン、色、サイズなど考えれば必需品のデジタル需要予想など、なんの役にも立たないことは自明だ。

  最近では、あえて、ワンサイズ大きな服を着るのがトレンドだし、人によっては、外見はユニクロなどと全く見分けがつかないのに、実はブランドはすごいのだ、と自己満足で購買している人もいる。また、全く嫌いだった服を、憧れの俳優が着ているという、ただ、その理由だけで好きになることもあるだろう。

  水やお米などの必需品は、「商権内一人あたりの胃袋消費の強さ x 人数」と、商権内の競合店による競争力の強弱で消費が決まる。売上に影響を与える変数は比較するのも馬鹿らしいほど少ないのだ。したがって、SM、コンビニエンスストアなどで活用しているデジタル需要予測を、予測できない変数が多いアパレルに導入しても難易度が格段にあがるというのが一点だ。

  しかし、単なる難易度だけの問題であれば、やがて技術が追い越すだろう。実はアパレルビジネスには、もう一つ、忘れてはならない構造的な課題がある。

 

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