企業再生最終章 - 揺るがぬ哲学に裏打ちされた当事者が持つ「シンプルな戦略」だけが企業を救う

2020/10/13 05:55
河合 拓

新型コロナウイルス感染症(コロナ)の拡大の長期化に伴う経済の低迷により、これから事業再生、企業再生は避けられないテーマとなる。そこで私が独自に体得した「企業再建の手法」を解説する本章も9回目の今回で完結となる。戦略と打ち筋はこれまで解説した通り。だが実際に実行するとなると計画通りにはいかないことも多い。その原因のほとんどが「人」の問題だ。現場の人間をどのように動機付け、意識を変え、戦略を実行できる集団に変貌させるのか? 

Ridofranz / iStock
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企業再生の現場で必要なのは、
現場に正しい情報を与え、現場に考えさせること

 企業再生の場で最も難易度が高いのは、資金が枯渇し、取り得る打ち手がなくなっている、あるいは、打ち手の順番を間違えると即死するようなケースだ。こうしたケースでは、PE (プライベートエクイティ)などの投資家、財務系ファーム、そして、私のようなターンアラウンドマネージャの三者が、三位一体となって改革にあたることが多い。改革チームは、お互いの持ち場を尊重し、そして、連携を密にする。投資家は、追加資金の融資を行い、私たちが事業戦略を描き、現場と連携しながら資金繰りを計算して仕入や投資計画を緻密に行う。また、財務系ファームが緻密なモデルをつかって、戦略変数のシミュレーションを行い、蓋然性と合理的な財務成果を算出する。ハンズオンといって、タスク管理だけやっている再生プロジェクトとはレベルが違う。

 しかし、時に現場が暴走するときがある。とくに巨大企業となると、さまざまな改革があちこちで動いており、私などの再建責任を任せられた人間の知らないところで、知らない話が動いてゆく。当然、あちこちで不具合が発生し現場も混乱するし、時に、誰かの面目を潰さなければならないこともある。こうした時、現場の暴走を止める間違った考え方は、すべてを承認制にして現場の動きを制御することだ。リテールビジネスはヒューマンビジネスである。現場の人間が自ら考える権利を奪われ、すべてが承認制になったら、その組織・事業はどんどん衰退してゆくだろう。

 こうしたケースにおいて、正しい現場とのコミュニケーションは、逆に、現場に対して透明性を保ち、正しい情報を与えるということだ。可能な限り、会社の置かれている状況を伝え、現場が正しい判断をするために必要な教育も必要であればやる。私は、数十人、時に数百人を集め、毎週のように世の中の動きや合理的判断のやり方などをレクチャーする。経営から了解を得た情報は開示し、なぜ会社が赤字に陥っているのか、業績が悪化しているのかを説明する。私は、現場の言葉とコンサルの言葉の両方を使えるバイリンガルだから、現場が理解できない説明はしない。

 こうした作業を幾度も繰り返している実感から云えば、現場はよく分かっているということだ。人間というものは、正しい情報と合理的な判断のやり方が分かれば、現場で恒常的に発生する課題を自助努力で解決することができるようになる。数百人もの人間が集う巨大企業となると、性悪説は通用しない。むしろ、性善説に立ち、現場に戦闘力を持たせるための武器を与えるやり方が必要なのである。面白いことに、正しい情報を与えられた現場は、逆にモチベーションが高まってくる。

 

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