最盛期から株価もPERも半減 ワークマンの成長ポテンシャルを分析する
例えば、メディアが次々と報道する「ワークマン女子」という言葉、しかし、既述の通りその売上構成比に占める割合も店舗数もまだ圧倒的に少なく、ワークマンの成長戦略にまだ大きくは貢献していない。ただし24年3月期から様相が変わる。新規出店35店舗のうち、20店舗が実に「ワークマン女子」なのである。なお「ワークマンプラス」の出店は15店舗に留まるが、既存「ワークマン」からの転換が58店舗あるので期末店舗数は557店舗となる計画だ。「ワークマンプラス」店舗数の中長期目標は900店舗で、うちあと200店舗を「ワークマン」からの転換としているので、ワークマンプラスの新店としての出店余地はあと150店舗弱ということになる。
そこで、同社が成長戦略の柱に位置付けたいのが「ワークマン女子」で、中長期目標を400店舗としている。既存「ワークマン」からの転換ではなく基本新店となるため、どの程度出店スピードがあるのか、実際に400店舗も出店できるのかが焦点となろう。
次に下の図表をみてほしい。
ワークマンの事業形態は、ほぼすべてがフランチャイズで、直営は実験店やSC(ショッピングセンター)内への出店などだけで、ごくわずかである。つまり、ワークマンはコンビニと同じなのである。だから、桁外れの出店ができるのである。
しかし、あれだけ複雑なビジネス、しかもアパレルであるから、VMD、陳列そのものでブランディングが決まるような業態なのである。これを全国900店舗のフランチャイジーに指導するスーパーバイザーの力量は見事としか言いようがない。
まとめ:エクセレントカンパニーたる理由とPER60倍の再来はあるか?
分析から得られたワークマンのビジネスモデルの仕組みをまとめよう。まず、ワークマンはフランチャイズビジネスである。したがって、毎回桁外れの出店計画を黒字倒産の不安もなく、キャッシュフローの悪化も心配せずに進めることができる。さらに、営業総収入対比の営業利益率は15%程度と、SPAアパレル企業と比較してみれば、(自分たちで最終の販売までを行っているわけではなく、加盟店に卸して売上が立っているので母数は小さくてすむため)エクセレントカンパニーである、と知らしめることができる。そして、本来、ワークマンがすべきIR (Investor Relations 企業が投資家に財務状況を知らせること)業務を「戦略PR」(メディアの方から近づいてきて、世に示す)の手法を使っているため、期待値が異常に高騰し高騰が高騰を呼んだのではないだろうか。もちろん、広告宣伝費を上回る、戦略PRによる売上効果が出ていることは間違いないだろう。
経営者の桁外れの強気の出店計画を聞くたび、「どうせ、アパレルのP/L(損益計算書)など在庫の振り替えでいかようにでもなるし、ワークマンのライトオフ(在庫の損金処理)までの期間は5~10年だ。PERなど信じられるか」という立場だったので、これまで見向きもしてこなかった。これはどういうことかといえば、5~10年間も同じ商品を売り続けられるため、値引きなどする必要がなく、シーズンが来るごとに売場に出せば勝手に売れていくということだ。つまり、売上が上がらなくても不良在庫になる心配がないので、在庫に振り替えておけば、利益が圧縮されるので一時的にPERが大きくなることもありえるという意味だ。会社側が意図的にやっているわけではなく、ビジネスモデル上、そういう状態にもなりえることを指摘しているだけである。なおこれは、今勝っているアパレルの勝ちパターンであり、売り切るまで時間をかけながら、いかに定価販売を続けられるかがポイントとなっている。
余談ながら、私のファンド仲間はアパレル企業の株価を見る場合、PERはみていない。理由は同じく、在庫隠しをしているケースが多いからだ(この場合の多くは、ライトオフ期間が短く、値引きしても売れないような文字通り不良在庫の塩漬けをしていることになる)。
最後に、ワークマンの最後の砦である「ワークマン女子」は、ワークマンを再びPER60倍に引き上げる事業たり得るだろうか。それは、ここまでの論考を読んだ、あなたの判断に委ねたい。
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プロフィール
河合 拓(経営コンサルタント)
ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
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