事業再生のプロから「再生不可能」と判断される経営者の特徴とは

河合 拓 (代表)
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本日は、前々回前回の続きとなる事業再生(ターンアラウンド)3部作の締めくくりをお届けしたい。本稿は、実は私が2年という年月をかけて書き上げたデビュー作「ブランドで競争する技術」(ダイヤモンド社)の最終章に置かれる予定だった「幻の第10章」である。紙幅の都合で泣く泣くカットしたものだが、ここには事業再生の本質が凝縮されていると言っていい。本稿は10年以上前の私の脂がのり切っていた時代、大企業の再生に果敢に挑み、揉まれ情熱をかけてハンズオンを繰り返しているときに執筆したものだ。やや「上から目線」な言い回しは、今読むと恥ずかしいところもあるが、当時の事業再生におけるノウハウの機微まで伝えていることもあり、あえてそのまま掲載した。3部作を読み終えた読者の方は、アパレル企業の再建という非常に複雑な仕事の裏側を体感してもらい、ぜひ感想などを送っていただきたい。

ridvan_celik/istock
ridvan_celik/istock

知られざる業界再編の裏舞台

 「あのアパレル会社は復活しますか?」 

 こんな質問を投資ファンドの人と議論する機会が増えてきた。

 「無理でしょう。人を全部入れ替えて、まったく別会社にしなければ変わりません。このままいけば業績はどんどん悪化し、いずれ市場から消えるでしょう」

 実はこれが本音なのだが、正しいことを言えば契約を解除される一方で、サービスである以上、相手に敬意を表するかたちで答えなければならない。コンサルなら、誰でもこのジレンマに陥るときがある。しかも、知らないのは本人(戦犯)のみ、周りのほとんどの人が同じことを感じているにもかかわらず、だ。

 最近では、アパレルの経営者から「先行きが見えない」という相談を受けることも多くなってきた。同時に、再生ファンドや商社が、アパレル企業をM&A(買収・合併)する話が新聞紙上を賑わすようになってきた。

 いよいよ業界の再編が始まったのである。

What to bet ?」(何を賭けるか?)

 約10兆円マーケットと言われるアパレル市場。少子高齢化でファッションに敏感な中心購買層は減少気味にあり、年々その市場規模は縮小している。

 一方で、トレンドサイクルはますます多様化・複雑化し、購買単価は下落している。アパレルを取り扱う業態や商業形態を見ても、百貨店は凋落し、SC(ショッピングセンター)や駅ビルが隆盛するなど、流通構造の変化に取り残されたアパレルは「半死」状態にまで追い詰められている。

 不振企業では、優秀な社員はどんどん離散し、企画機能が弱体化している。こうしたアパレルは、本業よりも煩雑な手続きの方に時間がとられるケースが多く、結果的に意思決定は遅く、動きが遅いのが特徴だ。

 このような企業の事業評価を行う時は、アーリーステージ(初期段階)で関係者から徹底してヒアリングをし、事業そのものが持つ「競争力」と「成長力」を見る。店舗を持っているアパレルはまだ可能性があるが、店舗もなく企画力も商社に丸投げ、販売は百貨店に依存し、リスクを評価する仕組みもない、あるのはすでに衰退期を迎えた過去のブランドのみ、というアパレルはほぼアウトだ。

 事業評価では、経営者の評価もきわめて重要だ。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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