コロナ禍で絶好調の生協宅配 DXの推進でさらに成長する理由とは?

大宮 弓絵 (ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長)
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組合員データの連携が新規事業創造のカギ

 生協のDXは異なる事業間での連携も促していきそうだ。生協は宅配以外に、店舗や共済、福祉などのさまざまな事業を展開している。昨今は、ネットとリアルの融合が小売業界の新たなサービス形態として注目されるなか、宅配商品を店舗で受け取るなど、生協が事業間連携を図ればさまざまな価値が創出できそうだ。

 こうした事業間連携を実現する1つのカギとなるのが、組合員データの連携だ。ただし、ほとんどの地域生協では、各事業の組合員データは別々で管理されており、生協宅配のヘビーユーザーに店舗の利用を勧めるといった、事業の垣根を越えた提案を行いにくいのが現状だ。

 そうしたなか、03年と早期から宅配、店舗、福祉事業の3事業で連携を図り、総合力で成長を図る「事業ネットワーク戦略」を掲げているのが福井県民生協(福井県)だ。すでに全店舗に宅配注文商品の受け取り拠点を併設しており、さらに今後は福祉事業での知見や組合員データを生かすことで、介護予防やフレイル(加齢により心身が衰える状態)対策関連の物販を宅配や店舗で広げていく方針だ。

 データ連携の煩雑さゆえ、他の生協ではなかなか追随する動きが出なかったが、これについても生協のDXが起爆剤になりそうだ。日本生協連は生協のDXのテーマの1つに「ICT(情報通信技術)中期計画」を掲げており、日本生協連のICT基盤のクラウド移行に着手している。また一部の地域生協とICT基盤を共同利用することでも協議を始めている。このようにデータ管理の在り方そのものが改革されれば、組合員データの連携、ひいては事業間連携が大きく進むとみられている。

 こうしてみると、デジタル活用があまり進んでこなかった生協には、成長可能性のある“伸びしろ”がまだまだ眠っていることがわかる。そして今、日本生協連が先導役となり進めているDX推進、組織改革が、これらの潜在価値を開花させていく契機となるかもしれない。それが現実のものとなれば、激化する食品宅配市場で、生協はさらに強い存在感を発揮する存在へと変貌を遂げていくはずだ。

 激化する食品宅配市場のなかで生協は“王者”として君臨し続けることができるのか。コロナ禍が誘発した生協のDXは、将来の成長を占う重要な転換点となりそうだ。

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記事執筆者

大宮 弓絵 / ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長

1986年生まれ。福井県芦原温泉出身。同志社女子大学卒業後、東海地方のケーブルテレビ局でキャスターとして勤務。その後、『ダイヤモンド・チェーンストア』の編集記者に転身。最近の担当特集は、コンビニ、生協・食品EC、物流など。ウェビナーや業界イベントの司会、コーディネーターも務める。2022年より食品小売業界の優れたサステナビリティ施策を表彰する「サステナブル・リテイリング表彰」を立ち上げるなど、情報を通じて業界の活性化に貢献することをめざす。グロービス経営大学院 経営学修士

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