スーパーマーケットが直面するインフレが「長い戦い」になる理由と3つの対策

宮川耕平(日本食糧新聞社)
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コスト増に対するスーパーマーケットの商品戦略は3つ

 光熱費は上がる、調達コストは上がる。しかし価格転嫁は最小限に留めなければならない環境にあって、スーパーマーケット各社が進める商品施策は概ね共通しています。いかにオリジナリティを高めるかです。

 オリジナリティを発揮しようとする分野もほぼ共通で、以下の3点に集約されそうです。

  1. PB比率を高める
  2. 総菜の構成比を高める
  3. 生鮮の加工度を高める

 いずれも、よそにはない商品として打ち出せて、かつ粗利率の高い商品群です。②と③はコロナ2年目に再び顕著になった簡便ニーズへの対応でもあります。各社のアプローチは一緒ですから、あとは結果である商品の質の違いが差を生むことになるのでしょう。

 ですから「質を追求する」という言葉が、多くの経営者から聞かれます。価格対策でやれることよりも、質の追求でやれることの方が打ち手が多いというわけで、その目指すところはヨークベニマルの大高善興会長が、4月オープンの西富山店(栃木県那須塩原市)の囲み取材で言及されたことに集約されると思います。

 「安さを追いかけても限度がある。しかしお客さまの欲求は無限だ。だからお客さまが求めるものを追求していく」(大高会長)

 

さらに人件費インフレの課題

 コスト増を見据えつつ進化を続けるヨークベニマルのデリカ売場
コスト増を見据えつつ進化を続けるヨークベニマルのデリカ売場

 そのヨークベニマル、今期からデリカの子会社ライフフーズを統合した新体制になりました。デリカ売場は子育て世帯へのアプローチを強めており、昨年の新店・改装店から「with mom」の看板を掲げるようになっています。売場の見せ方だけでなく、普段使いの煮物から見栄えにもこだわったメニューまで、カテゴリー単位の商品開発が進化を続けています。

 この進化を今後も継続していくために、デリカ部門では年初から単品ごとに必要な値上げを進めました。一部店舗でテストして、価格を上げても販売点数が落ちなければ全店に広げてきたと言います。

 デリカ事業本部長の松崎久美取締役は、「3年後の人件費を見越して必要な価格対応を進める」と言います。目下の原料高騰に対処するのはもちろんですが、将来の経費増を見越せば、ここで値上げを躊躇してはいられないという判断です。必要な値上げは5月上旬までに済ませて、さらに状況の推移を注視するそうです。

 確かに政府は、以前からあらゆる産業に賃金上昇を求めて来ましたし、首相は去年は所得倍増と言い、今年は資産所得倍増を掲げたり、何にせよ生活者の手取りを劇的に増やしたいと考えているようです。もとより労働人口の減少は深刻な社会課題です。

 エネルギー価格も調達コストも人件費も上がる20年代は、国内スーパーが30年以上も経験してこなかったインフレ局面での競争になっていく気配です。

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