GMS衣料のジレンマと真実!イトーヨーカ堂アパレル完全撤退の必然とは
アパレルビジネスの本質は「古代ギリシャ」に遡る
また、アパレルビジネスを構成するものとして、「空間 VMD」「商品、流行」「店員、接客」の3つがある。私はこれをギリシャ哲学者アリストテレスが提唱したエトス、パトス、ロゴスのフレームを使って説明している。
エトスとは信頼性、パトスとは共感性、ロゴスとは論理性という意味だ。これは、相手に納得してもらい、信頼を得ること(=エトス)、そしてこちらの想いを伝えること(=パトス)、できるだけ分かりやすく伝えること(=ロゴス)で相手が動くという考え方だ。
つまりエトスとは「ブランド」(信頼)であり、パトスとは(共感)で、ロゴスが接客(言葉)なのだ。必欲品であるゴルフシャツが欲しい人を例に考えてみよう。人は、「ゴルフシャツなら、このブランドにいけばいいものが売っている」と、例えば、オンワード樫山の組曲を見に行き(エトス)、商品をみながらその格好良いディスプレイにシビれ(共感)、販売員の接客で、例えば、「このウエアはノーアイロンでピンピンになりますよ」という接客を受けて購買するわけだ。
つまり必欲品を買うときは人は、オケージョン(どこに来ていくか?それはパーティーか、授業参観か、旅行かなどの非日常着)をイメージ想起する。一方で、必需品はどうかといえば、「晩ご飯は何にしようか」「人が来るからUber Eatsで頼もうかしら」など、想起するイメージが日常的なのである。これが、アパレルなどの必欲品が、魚、肉、コメなどの必需品と共存しない最大の理由だ。
しかし、唯一の例外はある。それは、「肌着や靴下」などである。実際、イトーヨーカ堂は2026年2月期までに、自社の紳士・婦人・子供服から撤退し、肌着と衣料品テナントのみとする方針を出しており、私の理論に合致する。
忖度漬けで過ぎ去った10年
しかし、問題はそんなところにはない。問題は、幾度もこの巨大クライアントからデカい儲けを考えていた商社の連中は、「野菜と服が一緒に売れるか」と心では思っていながら(もちろん、上記のエトス、パトス、ロゴス理論などは分からないのだろうが)、それをキチンと公の場で発言しなかったことである。そして、衣食住といわれるわけだから、「衣」だって「食料品」や「住居品」と同じだろうという、何も考えず、何も感じないサラリーマン集団になり、「やれない理由を探す前にやれる理由を見つけろ」とばかりに、何年も商社とともに莫大な投資を行っていたGMS自身の責任でもある。
私は当時から、GMSがすべき衣料品は、下着か靴下、タオルなどだ、とハッキリいっていたが、「それは禁句だ」と発言させてもらえなかった。「ユニクロだって、下着屋から総合ファッション衣料品になれたではないか」と彼らはうそぶきながら、一度走り出したら、スピードを上げれば上げるほど周りの景色がみえなくなりブレーキを踏めなくなったのだ。
だから、2023年の今になって、ようやく私が10年前に言ったことと同じことが起こり、むしろ恐ろしささえ感じるのだ。セブン&アイ・ホールディングスは外資アクティビストによってコンビニ集中戦略を推進しているため、このような結果になったのだろうが、もっと戦略思考がハッキリしていれば、そしてエトス、パトス、ロゴスの意味を理解し、人間が行動する本質的な原理を、論理的に考えていれば、結論はもっと早く出せていたはずである。その場合は撤退だけでなく、本体から独立するかたちで、無印良品のような生活全般をファッション提案する業態という選択肢も選べたはずである。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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