ユニクロのカシミヤとジンズのメガネに共通する、破壊的イノベーションの起こし方とは
ユニクロのカシミヤセーターは高級と比べれば、ややゴロゴロ感があるとはいえ、やはり、ラムやファインメリノウールとはわけが違う。ユニクロが「1万円カシミヤ」を世に出す前は、カシミヤのセーターは一生ものといわれ、一着5万円から10万円したものだった。大事な日だけに着ていって、夜は軽く陰干しして毛玉をとってタンスにしまっておく。こういう服がカシミヤだったのである。
そして、ユニクロとその他のアパレルの間で、追いつくことなど不可能なほどの差がついた原因は、その他アパレルがユニクロの勝因を「大量生産で中国とダイレクトに取引を行って安く売っているからだ」という総括をしているからである。
このカシミヤをみて、冒頭の「コンタクトレンズ」を思い出した人は勘が良い。
ユニクロは、カシミヤを「使い捨てコンタクト」と同様に日常化したのである。
だから、ユニクロでカシミヤを買っている人は、単に安いセーターでもっとも風合いがよいものを選んでいるわけだが、すくなくとも、昔はこういう買い方をしていなかった。つまり、ユニクロは世界でもっとも風合いがよいカシミヤウールを通常のセーターと同じ使い方にし、お茶の間に持ち込んだのである。そして、1枚だけ大事に持つのではなく、その日の気分やコーディネートに合わせて何枚もカシミヤセーターを保有することが当たり前になったのだ。
だから、むかしのカシミヤの使い方を知っている人は、ユニクロのカシミヤをみて、あたかも、私が「使い捨てコンタクトレンズ」をみて驚いたのと同じ衝撃を受けたはずだ。
これが、新しいライフスタイルの提案なのだ。
全員が誤解している「ライフスタイルの提案」とは
さて、「ユニクロ」「使い捨てコンタクト」「激安メガネ」を一括りにして「ディスカウンター」とよび、また、その秘訣は「SPA (製造小売業)」と短絡的に結論づけているメディア、金融機関の人が多いのには驚く。そして経営学の教科書においてもだ。
実は、「安売り」も「SPA」も、彼らが競争に勝っている条件ではない。彼らは、消費者に新しいライフスタイルを提案しているから勝っているのだ。
逆に言えば、「ライフスタイル」、「ものからコト」など、かけ声は威勢が良いが、単にテナントミックスしているだけの小売、奇をてらったMDミックスをしているだけの製造業などは、なんのライフスタイルの提案もしていない。
それでは、私がメガネのジンズホールディングスの社長、田中仁さんと話したときの貴重なやりとりを公開したい。
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