名門ワールド復活は本物か?M&A巧者が抱える意外な課題とは

河合 拓 (代表)
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あのストラスブルゴもワールドがM&A

ワールドが再生支援を担うストラスブルゴ

 さらに、ワールドと言えば思い出すのが「ストラスブルゴ」である。同社の運営会社リデアは社長が急死し、元リデアの社員で産業界でも有名な大物を社長候補に打ち立て再建案を提出した。それが、いわゆる「ロールアップ」戦略で、PBの温床になっているセレクト業界において、日本で数パーセントしかいないイタリー製の本物だけを取り扱う、真のイタリアンクラシコ型セレクトネットワークを構築する戦略であった。

 ストラスブルゴは、名だたるメゾンのOEMを担当していたその大物が日本に導入した名門ブランド「ラルディーニ」との関係性が深かった。ラルディーニはリデア社の度重なる危機に、ライセンス契約をご破算にしようと考えていた。そこで、我々はイタリアとリモート会議を開催し、資金調達の具体的計画を示しながら、ラルディーニの商権を守り新たな攻めの戦略を立てたのである。その後、その大物は干場義正氏と組み、様々なブランドを開発していった。

 しかし、そこで驚くことがおきた。買収契約があと一息ということで、リデア社が突然方向性を変えたのだ。また、その後、すぐにリデア社はコロナに打ち勝てなかったということで破産宣告を行った。この事件にはいろいろな仮説が打ち立てられるが、この手の話は、「勝手にやっていただきたい」というのが原則だ。私は、一切の関係を絶ったのである。その後、ラルディーニはピークアウトし、今では代わりに、その大物は様々な斬新な服を日本に導入、リデア社などむしろ邪魔といわんばかりの躍進を遂げている。しかし、こうした技はメンズだからできたのだ。批判を承知で言わせてもらえば、メンズは超絶インフルエンサーである、干場義正氏を起用すればいくらでも流行らせることができよう。この点はレディースとは大いに違う点だ。

 しかし、このストラスブルゴも、手塩にかけてつくった戦略が水泡に帰し、ワールドに買収された(ワールドと日本政策投資銀行、および両者が共同出資するW&Dインベストメントデザインが共同出資するファンドが買収を実行)。

  このようにワールドはM&Aは極めてスピーディかつ得意だと言えるだろう。ただし、その企業の事業価値をあげることが得意かと言えば、疑問符がつくのではないかと私は思っている。少なくとも現時点では、神戸レザークロスもストラスブルゴも事業価値があがったようにはみえない。

 ワールドのプラットフォーム事業について、いまベンダーが知っておくべきこと

 次が、以前からワールドが得意としてきた「プラットフォーム事業」である。ワールドはもともとオリンパスシシステムズと組み、UVASというアパレルのMD分析システムのデファクトスタンダードを作り、ライセンスを公開して売りまくった。結果、「日本でアパレルをやるなら、軽いERP+UVAS」という図式ができあがり、「週指数」、「在庫週数」、「QR」など「ワールド用語」を世に広め、日本のアパレル業界の標準形として、どのアパレルも同じ作り増し取引をやった結果、差別化ができなくなり価格競争に陥ったという歴史がある。

 ここでワールドの話からそれるが、今のデジタルベンダーは少なくともこうした「基本」をもっと勉強してもらいたい。例えば、AIベンダーが「将来の予測をする」などというが、「そんなことをしたら差別化がなくなる」と現場の人間が口をそろえるのには、こうした歴史があるからだ。

 私は、あるAIベンダーにこうした話を幾度も教えようとしたのだが、彼らは、難解な数学用語をちりばめ「予測が外れるはずがない」とうそぶき、大局的にみれば200%の供給過多なのに私の助言に全く耳を貸さず、「売れているのが本物だという証拠だ!」と言わんばかりに例えば三陽商会などにはバカ高いAI企業が3社も入り、何をやっているのか理解に苦しむようなことをやり出したのである。結果、消費者にとって数多くの競合がひしめくショッピングモールの中で、無数の変数が絡み合い、個社の予測など構造的に不可能であるということがバレはじめた。AIで需要予測をすることはムダだということが明らかになり、いまでは、「AIによる予測などきな臭い」とネガティブワードになってしまったのである。

 勉強不足とアパレル業界を舐めた態度が生み出した悲劇だった。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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