名門ワールド復活は本物か?M&A巧者が抱える意外な課題とは
今日は、神戸の名門企業ワールドの戦略について、アパレル業界の裏話を交えて解説したい。長いトンネルを抜けたワールドは2023年3月期、「コア営業利益」と呼ばれる指標(営業利益に近い数字)が135億円と対前期比2.5倍となり、大躍進を遂げた。
同社の復活は本物なのだろうか?戦略の巧拙を解説し、ワールドの行く末を予測してみたい。なおこの分析はあくまで私の個人的な主観によるものであることをお断りしておきたい。
デジタル、M&A、プラットフォームは必要十分か?
ワールドの事業は大きく3つに分かれている。伝統的神戸ブランドを消費者に販売する「ブランド事業」、BtoB、BtoCともにクライアントのデジタル・アウトソーシングを狙った「デジタル事業」。そして、おなじみの「プラットフォーム事業」である。
実は、「ブランド事業」で私はワールドに対して悔しい思い出がある。拙著『ブランドで競争する技術』で紹介した神戸レザークロスという会社がある。同社は垂直生産方式をセル型に変え、水平分業型にしてSell buy, buy One, すなわち、靴の受注生産の仕組みを作り上げた企業で、同社の技術を当時再建を手伝っていた某通販企業に導入しようとしていた。
神戸レザークロスには、数回にわたり戦略コンサルティングの助言を繰り返した。伊勢丹が行っているパンプスの受注生産のOEMを受けもち、マルイも手を出さなかった、そして、世界でNIKEしかできていない仕組みを作り上げたのだ。
神戸レザークロスは「パーツの会社」であった。つまり本来自社による「パーツの供給」を自社に行い、シナジーを出すべきなのに、
その後、某銀行の紹介により、日本で最もシューズの生産に詳しい人間ということで私が選ばれ、夢のバイオーダー生産は完成した。しかし、神戸レザークロスからの連絡は途絶え、ほどなくしてワールドに買収された。
当時の神戸レザークロスの経営者はおそらく、市場からの引きが強い一方で利益がでないバイオーダー生産を増やしキャッシュを枯渇させたのだろう。
バイオーダー生産で経済性を実現するには、「浅草」の靴生産地域が行ったようにパーツをすべて標準化し、また、その標準形を数百にわたるパーツ屋が守り、シューズ型PLMでエコシステムをつくる必要がある。これは、中国企業もやっているやり方だ。
ワールドが、そうした技術を知っているのかどうかはわからない。しかし、少なくとも、その後、シューズのバイオーダー生産をしていないということは、興味がないのか、経済性を実現するやり方がわかっていないのではないだろうか。もったいない話である。