ESG経営が「リスクまみれのD2C化」を推進する理由

河合 拓
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SPAにも関わらず製販分離が進むアパレル産業

過去論考で書いたように、アパレル企業は企画の「立案」機能を川中、あるいは、川上に外注してきた。今でも、アパレル企業の企画立案の「トリガー」(きっかけ)は「工場への訪問」が起点だ。だから、デザイナーという職種は商社や工場に生息し、一部の例外をのぞきアパレル企業にクリエイティブな職種は少ないいわゆるアパレル企業のデザイナーは生産部にいる、というとアパレルに詳しくない人はみな驚く。アパレル企業は、「売れ筋商品」を追いかけるため、ますますリテーラーに近づき、デザイナーのメーン業務は縫製仕様書を描くこととなりクリエイティビティは失われていった。このように、アパレル企業は、生産より販売に力を入れてきた。デジタル投資も販売面だけにフォーカスされているのはそのためだ。その結果、企画機能が工場側に移ってゆき、「ファクトリーブランド」が次々とできあがっていった

イタリアや韓国の歴史を見ればこうした構造は明らかで、イタリアはフランスの、そして、韓国は日本の企画機能を取り込み、イタリアは世界へ、そして、韓国は中国大陸へ「ファクトリーブランド」として力をつけていった。これに対し、日本は安い人件費を求め「南下政策」(コストの安い国へ生産拠点を移転)を推進した。技術承継も5年ごとにリセットした結果、産業の空洞化を招いた上、戦前戦後日本を支え今でも世界で有数の技術力を持つ繊維・テキスタイル産業が日本から消えようとしている。米国のように、産業を金融とデジタル技術にダイナミックに移転しようという国家戦略があるなら話は別だが、そうではない。むしろ素材産業は日本が国際競争力を持つ最後の技術だし、非衣料品分野の世界市場規模は成長しているのだ。

 

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