ESG経営が「リスクまみれのD2C化」を推進する理由

河合 拓
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ESG(環境・社会・ガバナンス)経営が、これまでとは比較にならないほどアパレル産業にとって重要となり、もはや無視できないほどになってきた。
私は、ESG経営とは、私たちが生きていくための環境をあらゆる産業が協力しながら守り抜く約束ごとではないかと思う。すでに地球の温度は10年早く1.5度上昇し、生態系にさえ影響を与える段階に来ているし、人権問題も経済の発展過程だといって切り捨てるのは、あまりに強者の論理なのかもしれない。産業弱体化が叫ばれるファッションでこうした問題に一石を投じることができれば、本当にすばらしいことだと思う。
しかし、地球のどこで生産されているのか掴むことさえできないほど複雑になったサプライチェーンは、早晩トレーサビリティ(透明性)責任が課せられ、DX(デジタル変革)によるEC化と相まって、結果としてD2C(Direct to consumer 製造業が消費者にデジタル技術を使って直販するビジネスモデル)化が加速することになる。しかし、その結果われわれが直面する「事業リスク」も否定できない。

環境規制が進めば、アパレルの
自社工場化も進む

metamorworks/istock
metamorworks/istock

国内アパレル産業の市場規模はついに8兆円を切り、もはや、人口減少と実質所得の低下だけではアパレル不況を説明できなくなった。加えて、SDGsの広がりは、既存アパレル業界にとっては、ネガティブ要因にしか働かない。「買い替え需要の長期化」と「二次流通の大きな拡大」を助長したことは、いまさら定量的に証明する必要も無いだろう。

 しかも、SDGs対応について多くの企業はIR活動やPR対応と考えている企業もまだまだある。だが、よく考えてもらいたい。この問題は単なるコミュニケーションの課題なのか、ということを。やがて、サプライチェーン全体の二酸化炭素排出規制や有害物質の計測責任・管理に加え「滞留在庫」にまで管理責任が問われる時代がくる可能性も否めない。
SPA(製造小売)であり自社ブランドで販売している以上「我知らず。生産現場に聞いてくれ」ではすまなくなっている。毎年の市場への総投入量の98%が海外生産で、その半分が売れ残り、毎年1520億枚が余剰在庫として積み増され日本のどこかに眠っている。生産地にいたっては、中国に加え、東南アジア、タイ、ミャンマー、バングラデッシュへ分散されている。複雑怪奇なサプライチェーンの透明化は、全ての企業に義務づけられる、大改革を伴う「トップマネジメント課題」となる可能性が高い。

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