脱トレードで問題解決業をめざせ!アパレル商社の生き残り戦略が「デジタル」ではない理由
今回は、いまもっとも厳しい岐路に立つ商社繊維部、繊維商社の生き残り戦略について書き綴った。その理由は、商社繊維部、繊維商社が生き残り戦略として「デジタル化」を中心軸においているからだ。
私からいわせれば、「デジタル化」は特にこれらの業態の魔法の杖ではない。生き残りの必要条件であっても十分条件でないのである。むしろ、もっと本質的なところでビジネスモデルの転換を図る必要があり、デジタル化はそれを支援する改善手法である。しかし、どうも昨今の動きを見ていると一部の商社繊維部、繊維商社以外は目的と手段が逆になっているような気がしてならない。商社の戦略とは、「商社の本質」をさぐることで明らかになる。目の前の改善に惑わされることなく、今本当に何をすべきかを考えて頂きたくて筆を執った。
在庫は善か悪か?
私がまだ駆け出しの商社マンだったころだ。アパレルのOEM事業を日々こなしていた私が、上司と一緒に営業の帰り道を歩いているときだった。私が上司にこう聞いた。
「質問があります。我々が在庫を持つ意味はなんですか?」
その上司は常に原理原則論に立ち返る優秀な人だったため、私はいつもこのように質問攻めにしていたのだ。彼はこう答えた。
「ない。商社にとって在庫は悪だ。絶対に持ってはならない」
私は、不思議な気持ちにさせられた。なぜなら、「在庫年齢表」(在庫別に滞留期間を表す表)には、在庫だらけだったからである。
その後イトマン事件(1991年に起きたバブル崩壊のきっかけとなった事件)の渦中では、当時のトップから「とにかく、在庫を全部吐き出せ!臭い在庫は絶対に残すな」という号令が下った。
かくして私は、骨の随まで「在庫は悪である」という意識を身につけたのである。
私が新入社員で配属された名門商社イトマン海外繊維部は、旧安宅産業という相場取引で破綻した巨大商社の繊維部を吸収合併した事業部である。当時のイトマンには住友イズムといって、リスクを絶対にとらない風潮があった。例えば、海外との取引でも、「為替を買う」ことは絶対に許されなかった。逆に言えば、どれだけ少額の取引であっても、例えば、数ドルの取引であっても午後の3時までに銀行に為替予約のスリップを細かく入れる。また、為替が100円を切って大儲けできそうだと感じても、取引先からの発注がなければ絶対に為替をつなぐことはできなかった。思えば、破綻した商社繊維部、繊維商社はみな(当の本人であるイトマンがダークな取引で破綻したのとは別として)相場取引(為替、在庫、原料相場など)で失敗し経営破綻している。
相場というのは、儲かるときには思い切り儲かるが、相場を100%の確立で当て続けることは不可能だ。「儲かった」と調子にのって相場張るも、相場が逆に振れれば大損失を被ることになる。商社とは、商流の間に入り商材を右から左へ流すビジネスが主流。したがって、粗利益率(売上から原価を引いたものの売上に占める比率)でさえ極めて少なく、営業利益率にいたっては一桁台ということも多い。だから「一件でも引っかかったら(回収できなかったら)、取り返すのに10年はかかる」とよく言われたものだ。
得意先もいないのに、工場をどんどん回し、在庫を積んで売りにゆく製造業とは全く違っているのである。
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