ZOZO創業者、前澤友作氏が手金80億円をアパレル企業に投資した理由

2020/10/06 05:50
河合 拓

新型コロナウイルス感染症(コロナ)の拡大の長期化に伴う経済の低迷により、これから事業再生、企業再生は避けられないテーマとなる。そこで私が独自に体得した「企業再建の手法」を解説する本稿もこれで第8回目。戦略と打ち筋はこれまで解説した通り。だが実際に実行するとなると計画通りにはいかないことも多い。その原因のほとんどが「人」の問題だ。現場の人間をどのように動機付け、意識を変え、戦略を実行できる集団に変貌させるのか?そして、現実が見えていない経営幹部にどう実態を知らしめるかが大きなテーマだ。ZOZO創業者の前澤友作氏がアパレル企業に巨額の投資をした理由など、アパレル業界の動きを踏まえながら、見ていこう。

前澤友作氏が80億円をアパレル企業に投資した理由とは!?写真:ロイター

アパレル業界は「最期」なのか!? 前澤氏巨額投資の意味は?

 多くのアパレル企業が9月に半期決算を迎えるが、ここで我々は業界の地獄絵図を見ることになる可能性が高い。売上はなんとか維持し、メディアも「売上」だけで業界を評価してきたが、これはコロナ過において、過剰仕入となった春夏物を叩き売りして換金率を高めた結果であり、利益率は大いに低下。大赤字となる企業が出てくることになる。

 また、EC化率は激しく向上するが、これは売上のパイが下がったからで、決して消費者の買い方に寄り添った改革の結果とはいえない。日に日に増す倒産件数にも中小のアパレル企業が名を連ねている。良い話といえば、ユニクロやワークマンなどのいずれかが、単月で昨対比を超え始めていることぐらいだ。

 しかし、私は、これをもってアパレル業界の最期と見るのは時期尚早だと思う。時代は大きな変革局面にきている。何十年に一度といわれる新型コロナによる世界経済の停滞も、何十年も「変わる、変わる」と言われ続けてきたが、鉄の山のように動かなかったアパレル業界が動き出すトリガーとなったと見れば、「産みの痛み」であるともいえる。実際、体力のあるアパレル企業は、既にアフターコロナに備えて様々な戦略を立てている。私は、そのど真ん中にいるわけだが、散々メディアに叩かれ割安銘柄になったアパレル企業に対し、ZOZOの創業者、前澤友作氏が手金の80億円をアパレル2社に投資し筆頭株主になったのは同氏がこうした状況をよく理解しているからだと思う。人が服を着なくなるということはないし、もっと外に出られるようになり、海外旅行にも行けるようになれば人は着飾りたいと思うだろう。

 「仕入れ先の集約」にしても、過去、再建プロジェクトで常に激しい抵抗勢力との闘いが嘘のように、今ではアパレル企業側から「集約したい」と言いはじめている。これまで数百社、数千社と節操なく仕入れ先を使ってきたアパレル企業が「これからは3-4社に仕入を集約する」といいだしたということだ。しかし、多くのアパレル企業は、仕入れ先の集約についても大きな誤解をしている。彼らは、付加価値をいかにして上げるかという、最も本質的な課題から目を背け、単に際限ないコストダウンをしているだけのように見えるからだ。

 私は、よく「自動車産業」を例にし、二次流通市場の設立やトヨタJIT(ジャスト・イン・タイム)のアパレルへの応用を説いてきた。こうした文脈の中から、アパレル企業は「企業間連携」を加速させ、産業効率をあげよと語ったりしてきたが、私は単に集約すればコストが下がる、ということをいっているのではない。私が、「企業間連携」を推進しろ、というのは、異なる企業がそれぞれの「得意分野」を企業間を超えて連携しVSN (バーチャルシングルカンパニー:仮想単一企業)、今風の言葉でいえば、新産業エコシステムをつくれ、ということなのだ。例えば、どのように見ても製造業に近いアパレル企業が、SPAの名の下にリテールオペレーションを自前で持ち、自社で顧客接点を作り上げようという試みは、企業文化を破壊し失敗する可能性が高い。

 米国のデジタル企業、例えば、Appleの業態変化の歴史を見れば、自社に持ち得ない技術などは企業買収や企業連携によって他企業の力を使っていることは説明する必要は無い。私が事例に出すクルマ産業も、異なる企業がAI を使って自動運転技術の開発を同時に行うのなら、最も進んだ企業の技術を皆で使えば良いということだ。

 企業間連携とは、単に素材をまとめて大量発注すればコストが下がるという小さい話では無い。重複機能を共有化し、自社が最も得意とする領域を他社と共有化することで、産業効率とイノベーションを推進し、差別化領域は自社のチューニングで味付けする。企業間連携を考えている経営者の方達は、ぜひこうしたダイナミックな業界絵図を想像してもらいたい。ユニクロは、もはや規模もビジネスモデルも、日本のファッション産業が参考となるべきものは少なくなってきた。果てしないコストダウンの先には、崩壊しか待っていない。「これからは、AIがすべて仕事をしてくれるから、我々は家で寝ていれば給与がもらえる時代が来る」などというSFチックな話は学者にまかせ、我々実務家はもっとリアリティのある企業間連携、戦略絵図を白紙の紙に書かねばならない時代になったのだ。

 

 周回遅れとなった日本アパレル企業の多くに勝ち目は見えにくいが、ファッションビジネスというのは「流行」という神風による逆転満塁ホームランもめずらしくない。例えば、メルローズが展開する「コンバーススターズ」などは、The North Faceを筆頭に、プレミアムスポーツカジュアルを展開するGoldwin社が得意とする成長領域のハイセンスブランドだ。私は、「トレンド」と「天気」で業績を語るべきでないと云ったが、トレンドを外し、今でも化石と化したブランドを売り続けるアパレルに未来はないのもまた事実である。後述するレナウンの事例などはまさにそうだろう。「トレンド」だけに頼るのもどうかと思うが、現実のビジネスとは科学と数字だけで勝てるほど甘くないのも知っておく必要がある。

 さて、話を企業再建に戻す。

 今回のテーマは「人の意識の改革」である。企業再建の最終章を「人の意識」に絞ったのは、企業再建とは、まさに「人の意識改革」に他ならないからだ。

 先日のことだった。私は、ある大赤字の大手小売企業に呼ばれた。経営企画の方は、そのテーブルで、企業再建の仕事は「人の説得、人の意識改革がすべてだ」とおっしゃり、私の感覚と全く一致した。思い起こせば、企業再建の仕事の70%は抵抗勢力との闘い、改革の正当性の説明だった。企業再建とは、「請負仕事」では務まらない。コンサルタントと経営者がタッグを組み、同じ方向を心の底から信じることが成功の大前提である。そんなとき、私はいつも心にとどめている座右の銘がある。それは、

 「同じ言葉は五回繰り返さなければ伝わらない」

 これが企業再建の現場の真実である。

 経営、あるいは経営企画の人達は頭の回転が速く、「そんなことは一回いえば分かるだろう」と丁寧な説明をせず、たった一度の説明で現場が理解しないと苛立った態度を取る。酷い例になると、数百ページのコンサルに作らせた難解な資料をポンと渡し、「これを読んでおけ」といって終わり。当然、現場は全く理解できないのだが、その場を取り繕うために「はい」といって、現場に戻った人間は、あやまった情報に尾ひれはひれをつけ、「近々、大リストラをやるらしいぞ」などという噂をばらまくことなど珍しくない。

 

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