ZOZO創業者、前澤友作氏が手金80億円をアパレル企業に投資した理由

河合 拓
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「目から鱗が落ちる戦略をつくれ」という残念な依頼

kuppa_rock / iStock
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 結論のでない延々と続く批判の応酬、難解で論点が絞り込まれない戦略と称するPowerPointの資料、これらは現場を混乱させ企業改革を遅らせる元凶である。本来、戦略というものは極めてシンプルで誰もが一目見ただけで「これだ」という実感が沸く1ページで表現できるものだ。だから、改革を先導する者たちは、現場が分かる言葉で可能な限り平易に、そして、現場に進むべき方向を説明し、理解を得なければならないしその具体性を示さねばならないのである。

 企業再生というものは寝技や忖度が通用するほど甘くない。また、従来のビジネスモデルの延長線上にある「改善」の先に、大きく変わりゆくアパレル産業の未来像は見えない。シンプルで分かりやすいことは大前提だが、同時に、そのコンセプトは極めて大胆で「革命的」でなければならないわけだ。流行の言葉や、奇をてらったようなデジタル道具を使っても、実務家にとって成果実感がわかない道具は何の役にも立たないことを現場は知っている。

 業績が悪化する企業は、時に、コンサルタントに「目から鱗が落ちる戦略をつくれ」と頼むが、そんなものに期待してはならない。

Retail is detail」、あえて私なりの解釈をすれば、この格言は、小売業の改革のポイントは日々の積み重ねの中にあるということだろう、小売りの仕事というのは基本の反復以外にない。しかし、企業再生の現場というものは、誤解と曲解のオンパレードである。時間とともに、あれもこれもと話がどんどん曲がってゆく。強力な一枚の絵が持つ破壊力は想像以上に価値がある。「そんな話はしただろう!」などと怒っているのは経営者のおごりである。単純なコンセプトをシンプルな絵にすることは非常に難しいし、人間にとって理解と誤解の境界線は曖昧だ。

 そんな私も、経営会議でクライアントの「目から鱗を落とした」ことが一度だけあった。しかし、その「目からの鱗落とし」の実態は、みなさんが考えていることと真逆である。当時、経営会議の最後を私の報告で終わる予定だった。その経営会議では、「米国では言語解析による発注が一般化している。我が社も採用すべきだ」とか「人工知能を活用して、将来予測を行うべきだ」などという「浮いた」議論がなされていた。

 最後になって、私の報告が始まった時だった。私の報告はあまりに単純で、しかも、(あえて失礼な言い方を許して頂ければ)滑稽ともいえる現場の実態だった。経験豊かな経営者であれば、現場とはそういうものだという事実を分かっているが、現場感覚のない経営者はそれを分からない。特に大企業になればなるほど、現場は見えなくなる。リアリティのある実態の報告に、誰もが、まさかそんなことはないだろうという顔をしていた。とりあえず「最後まで聞こう」ということになり、プレゼンテーションが終わったとき幾人かの役員は「信じられない」という顔をしていた。

 その報告で明るみになった「企業を赤字に追いやる実態」があまりに単純だったからである。「こんなことが放置されていたのか」というのが正直な感想だろう。しかし、事実は事実だ。それがいかに馬鹿馬鹿しく単純であっても、事実から目を背けてはならない。ましてや、改革を先導するものは実態を調査するより、経営者に忖度するなど、上司の考えを優先し、解決すべき課題の論点をずらしてはならない。

 組織内で上司の考えや、「落とし所」を否定するのはなかなか難しい。そういうときこそ、客観的な分析をしてくれる外部協力者を雇うべきだと思うのだが、その外部協力者も、いわゆる「落とし所」を最初から探ろうとするからたちが悪い。結局、課題は解決されないまま放置されてしまうことになる。企業再生が如何に難しいかという現実である。結局、企業を大きく変えてゆくためには、その企業の中に当事者として入り込まねば、サラリーマン仕事でやれるものではないと感じるようになった。

 

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