アパレル商社復活の道-2 アパレル商社の優勝劣敗を分けたのは戦略軽視

河合 拓
Pocket

勝ち組商社と苦戦商社を分かつもの

 視点を変えて経済に目を向けると、コロナ以前に日本はますます貧しくなり、こうした中、ユニクロも商品完成度を上げてゆき、プライベートブランド(PB)レベルでいえば、ファッションアパレルと何ら遜色ないほどになってきた。「アパレル不況の時代」がきたのである。あれだけ国民の生活に密着していた百貨店も、需要に対する供給という意味では世界で類を見ないほどのオーバーストアとなり、インバウンド需要が止まった瞬間に70%も売上が落ちるなど、地方の百貨店ほど危機的な状況に陥っている 

 こうした中、商社の中には、従来型の「トレード」を、ファッションビジネスのようなアップサイド・ボラティリティ(売上が読めない不確実の高い状況)が高いビジネスを避け、スポーツやユニフォームなど、比較的売上の変化が安定した領域にシフトし、さらに、収益の柱を、誰もが避けきた「ブランド」というインタンジブルアセット(目に見えない資産)に注力し恐ろしいほどの利益を上げた。当時、商社は「現場、現物、現実」という三現主義というドグマに汚染され、「ブランド」など手触り感のないものは商売にならないという「ハードウエア信仰」を貫いていた。多くの商社が、この戦略を真似し川下に進出したがうまくいかなかった。私はある時期、商社組織がブランドを発掘する「審美眼の裏にあるメカニズム」がいかにして生まれるかを調査したことがあるが、これは「企業文化」としか説明のしようがなかった。

 さらに「選択と集中」を加速させ、「3050億円以下の商売はやらない」と企業方針を決め、トップ営業で「勝ち組アパレル」と、売場から作り場までを、企業間取り組みで垂直統合した商社もあった。経営学を地で修得していた私は、このときほど「戦略」の違いが生み出す恐ろしさを感じたことはなかった。勝っていた商社は、等しく経営理論のセオリーに沿った動きをしていたし、何十年も仕事のやり方を変えなかった商社は、先日、亡くなられた私の崇拝するクリステンセン教授がいう「イノベーションのジレンマ」(企業は勝った理由で失敗する)に陥っていた。

 日本のアパレル業界の産業構造は「ファーストリテイリング一強」だ。ここに、日本中の商社が集まり潰し合いをやっている。結果、コスト競争に陥り収益を悪化させている。だから、商社が売上を求め、レッドオーシャンから抜け出そうと超ロングテールの領域に打って出てしまうと、企業数だけ独自のやり方や数にならない単位の発注が増え、生産性は著しく下がってしまう。まさに戦略が商社の明暗をわけたのである。

 戦略軽視の歴史は、アパレルだけでなくアパレル商社にもいえたのだ。戦略を軽視し、オペレーションを過度に重視したため、今となっては商社にハッキリとした明暗が生まれたのである。そこにコロナショックだ。今年、アパレル商社は大きな統廃合が起きる可能性が高い。

 

河合拓氏の新刊
「生き残るアパレル 死ぬアパレル」7/9発売!

アパレル、小売、企業再建に携わる人の新しい教科書!購入は下記リンクから。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

河合拓氏_プロフィールブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

1 2 3

関連記事ランキング

関連キーワードの記事を探す

© 2024 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態