アパレル商社復活の道-2 アパレル商社の優勝劣敗を分けたのは戦略軽視

河合 拓
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私の30年にもおよんだ、商社復活のための戦略づくりの旅。この成果を、アパレル業界の様々な課題を商社視点でみながら、全3回に渡って解説していく。第2回は、アパレル商社を窮地に追い込んだ戦略の違いと、勝ち組と呼ばれる商社、と苦戦中の商社を比較し、その違いを論じていきたい。

Ranee Sornprasitt / istock
Ranee Sornprasitt / istock

アパレル商社を窮地に追い込んだ「コバンザメ手法」と「南下政策」

 商社の基本戦略は、トレード(売り買い)を主軸とした、「コバンザメ手法」と「南下政策」であった。 

 「コバンザメ手法」というのは、儲かっているアパレルを見つけ出し、そのアパレルの仕入(商社から見た売上)を可能な限り頂こうというものだ。結果的に、各商社では、与信が安全で売上が大きな無印良品やユニクロに群がらざるを得なくなり、商社同士がコスト競争に陥りながら、血みどろの戦い(レッドオーシャン)を行っている。本来、この「コバンザメ手法」というのは、産業が大きく拡大している時には有効であった。しかし、市場が縮小し、これだけ世界をまたいでモノが行き来するようになった今、輸入業務は商社の専売特許でなくなり、また、海外の工場、特に中国の工場のほとんどは日本語でビジネスが可能となっている。外貨送金による規制も何ら難しくない。結果、最もボリュームが固まる仕入はアパレル自身でやり、ハイリスク・ローリターンだけが商社に集中させられることになった。

 さらに、「南下政策」というのは、とにかく人件費の安いところに生産拠点を移動させ、徹底して原価を下げるアプローチだ。例えば、この30年で、生産拠点は韓国、台湾から広東省、そして、北の北京・青島あたりに寄り道し、さらに南下して東南アジア・タイ、今は、ミャンマーとバングラデッシュがメーン拠点となっていることはこれまでの論考で解説したとおりだ。なぜか、この30年、繊維製品の生産はハンド・メイドが基本となっており、自動化の技術はスルーされ、「人件費勝負」を繰り返していた。

  消費者側から見れば、手慣れた中国の広東省から、生産拠点として未成熟であるバングラデッシュへ拠点を移した生産からといって、商品が多少ほつれていても構わないということはないわけだから、商社のリスクはますます増えてゆくことになる。 

 他産業に目を向ければ、人件費は自動化によってゼロ近くなり、例えば、ドイツではインダストリー4.0といって、無人工場が稼働し、生産拠点を自国へ誘導する国家政策がある。しかし、なぜかアパレル業界ではそういうことはおきない。私は新入社員の頃、先輩に「なぜ、世の中はますます自動化がすすんでいるのに、アパレルのものづくりだけは人件費の安いところにいくのですか」と聞いたことがある。しかし、先輩は困った顔をし「屁理屈をいわずに仕事しろ!」と怒られたことがあった。こうして、純粋な疑問は昔から続くやり方に押しつぶされ、組織の中で消えていったのかもしれない。私自身、いつしか「南下政策」に疑問をもたないようになり、新たな地に出て行くことが商社マンの仕事のダイナミズムだと思い込むようになっていた。 

 結果、世界に誇る技術をもった日本の生産拠点は消えてゆき、今では総投入量の2%以下となっている。それでも「2%(=国内生産比率)もあるではないか」というので、ある工場を訪問してみると、働いているのはアジア人留学生ばかりだという。岡山のデニムなどのごく一部を除き、もはや日本から繊維製品の生産拠点は完全に消えていった、わずかに残った生産拠点は国宝級のレア製品ということになる。

 

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