アパレル商社復活の道-2 アパレル商社の優勝劣敗を分けたのは戦略軽視

河合 拓
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商社はKPIを、売上から利益率へ変えるべき

 この「コバンザメ手法」と「南下政策」の組み合わせこそ日本の商社を窮地に追い込んだ戦略ではないか。

 例えば、欧州に目を向けるとイタリアは、自らの生産拠点の付加価値を上げる逆戦略をとってきた。彼らは徹底して顧客志向を貫き、フランス・メゾンのOEMというポジションから脱却するため、国家戦略として世界化を進めていった。世界中からファッショニスタをフィレンツェに集め、イタリアはファッションの国というポジションを確固たるものにし、イタリアブランドを作り上げ、工場出し価格を上げてきた。

  これに対して、日本のものづくりは、商社のQCD (QualityCostDeliveryの略。うまい、早い、やすいという意味) 偏重により、世界のアパレル企業が数十万枚という単位で生産を行っている場所にまで乗り込み、日本の過剰品質と極小ロットという「日本の論理」を押しつけ、限界利益を下回るオーバーコストを発生させ、恐ろしいほどの歩留まりを吸収した原価で輸入していることになり、ますます下がる最終製品のマーケット・プライスの定価の板挟みとなり、事業が立ちゆかなくなっているのだ。 

 商品に、その商品しか持ち得ない特徴を「Attribution」というのだが、生産というのは、後工程になればなるほど、サイズ、色、デザインなどが確定しAttributionが明確になる。業界の最大の問題である余剰在庫については、このAttributionが少ない生地や糸などの原材料の段階で在庫を持てば、「虫食い」による穴が空かない限り5年〜10年は持つ。そして、自動車業界では当たり前のように、工程ごとの中間在庫量をデジタル技術をもって計測し自動補充してゆけば、納期遅れも撲滅できるし、製品のアセンブリーなど23日で可能なのだ。実際にドイツでは繊維でそのような作り方をしている工場が稼働している。 

 つまり、業界では当たり前と思われている「納期まで1ヶ月かかる」というのは、未だに紙と鉛筆を使った伝言ゲーム、何度も作り直しをさせられるサンプルと人間輸配送を解決しようとしない結果なのだ。こうした非効率は、商社とアパレルのトップ同士が「取り組み」を前提に、アパレル企業を正しい方向に導き(彼らに3D CADを使わせサンプルの微調整をやらせるなど)、その対価としてサンプリングのコストの削減、および、スピードアップをせねばならないのである。

 成熟社会の今、我々は、大量生産、大量消費をやめ、また、資源の有効活用を真剣になって考える時期がきている。そのためには、まず、市場が求めている以上の商品を売り込もうとする売上至上主義を廃止しKPIを、売上から利益率 (付加価値の大きさ)に変えるべきだと私は思う。サステイナブル経営とは、まさに「付加価値経営」であり、規模の大きさの勝負ではない。

 自動車でいえば、商社はこれまでは後部座席に座っていれば良かった。だが、これからは自らが運転席に座り、自らハンドルとアクセル、ブレーキを操る必要がある。主体的ビジネスを行い、アパレルの売上にあやかって自らの売上を増やすのではなく、取り組み先であるアパレルの事業価値をあげることで商社の利益率を高めるビジネスをしなければならないのだ。

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