アパレルのEC売上は「アフターコロナの時代でも増えない」理由

河合 拓
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「ECが拡大する」というのは嘘

JohnDWilliams / istock
JohnDWilliams / istock

 こうした、論理的思考力の弱さからくるマネジメント力の弱さは、「コロナ後にはECが拡大する」という、念仏のように唱えられている言葉にも表れている。これは、人にとって必要な衣食住の中で、なぜ衣料品だけが産業として崩壊の危機に瀕しているのかという問題と無関係ではない。

 順を追って、説明しよう。

 テレワークなどは、私も含め「こんなに便利なものがあったのか」という驚きと、「これでも十分できるじゃないか」という、デジタルの威力を国民全員が知る良い機会となった。ある意味、コロナの副産物と言えるかもしれない。

 潜在的に便利なもの、今まで当たり前だと思って疑わなかったこと(毎朝、通勤地獄に紛れて所定の時間に出社すること)が、実は非合理的で、むしろ企業のコストを上げていた(ワークスペースや通勤交通費)ことを企業も個人も知った。こうしたケースにおいては、「アフターコロナに、テレワークは増える」に違いない。実際、コンサルティングファームではコロナ前から、ウェブ経由で会議に出席するケースが多かった。このテレワークのようにコスパも効率もよいものは、コロナ後に(その良さをしった人達によって)増えるだろう。

 しかし、ECはどうか。コロナの前から存在していたし、消費者もECの利便性はよくわかっていたはずだ。それが、コロナで巣ごもりを強要され、ようやく街にでることを許されたのだ。そういう事情だから、そこには「新しい発見」などなにもない。にもかかわらず、なぜ「ECが増える」と考えるのか。そこには、全く論理的な説明がない。

 そもそも、ECの拡大というのは、企業が決めるのでなく消費者が決めるものだ。企業が「拡大する」などと言っても、消費者がECで買わなければ売上を維持したままEC化率を高めることはできない。

 現在、日本のアパレルのリアル店舗とECの割合は90%と10%ぐらいである。つまり、アパレルに関していうなら、ECなど10%程度にしか過ぎないのだ。消費者からみてECで買う理由など、コロナ前から10%にも満たないと言い換えることもできるもちろん、ECの成長率は年率約8%だが、ここにも数字のマジックがある。8%というのは、全体から見れば10%の8%だから毎年1%弱しか成長していないことになる。そもそも衣料品のマーケットは縮小しているのだから、ECが成長しているという表記は間違い、消費者の購買チャネルが、毎年1%ずつ入れ替わっているというのが正しい言い方だ。

  つまり、「ECが拡大する」というのは、消費者側の論理でなく企業側の論理なのである。しかも、顧客買い込み策としてAmazonプライムやAIをつかったレコメンド、当日配送のロジスティクスといった“兆”単位の投資を行っているAmazon、楽天、Zホールディングス(ヤフー)に対して、蚊の鳴くような投資を行って、EC売上が増えると思ったら大間違いだ。このように、論理的に洞察を進めれば、コロナ後にECが拡大するというのは誤った考えであるということが分かる。

 「EC化率」は増える。だが、あくまでも「率」であり、絶対額としてのEC売上高はどんどん減少するだろう。Amazonや楽天、Zホールディングスに顧客を奪われるからだ。

 次回は、その先にある「EC化率が高まるほどに、ユニクロに完敗する」というセンセーショナルだが、悲しい事実を、論理的にご説明したい。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

河合拓氏_プロフィールブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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