アパレルのEC売上は「アフターコロナの時代でも増えない」理由

河合 拓
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勝てるバリューチェーンの作り方

tumsasedgars / iStock
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 一例として、中国工場の日本人と会食した時の話をしよう。そこで語られたアパレル企業、いや、生産事業部の常軌を逸した「仕入れ先いじめ」は驚くほどだった。日本のアパレルは、完成品在庫は数百億円という規模でリスクを持ち、期末に数十億円という在庫を損金処理(破棄)する。しかし、上代の30%の、さらに30%、つまり、1万円の商品の1割程度しかない(輸入費を除けば実は5%程しかない!)原材料費(アパレル企業の原価は、FOB<仕入れ値>の30%が利益、30%が工賃、30%が原材料費と覚えておこう)は持とうとしない。半製品を持てば、使い回しもできるしライトオフまでの期間は5年から10年になる。よいこと尽くめなのだ。半製品で在庫を持てば、アセンブリ(組み立て)にかかる時間はたったの3日である。つまり、10日もあればバイオーダー生産はすぐに可能なのだ。これをアパレル会社のいろんな人に言っても、答えは「今までにやったことがない」と「仕入れ先に頼めばもってきてくれるので原価計算が面倒くさい」という回答しか得られない。まったく信じられないような話である。

 年商1000億円の企業が50億円程度しかない工場に対して、「ヘッジ」の名の下、契約があるにも関わらず、平気でキャンセルするのである。なぜ、体力のある年商1000億円企業が、たった50億円の規模しかない工場に対し、一旦約定をいれた商品をキャンセルするのか。その理由を解きほぐすと、私が批判している生産部や商社の丸投げ体質の実態が見える。

 話を、その会食に戻す。私はそんな企業と付き合うなといったのだが、「そんなことをしたら、次回からオーダーをもらえないのだ」という。私が業界にはいった30年前と全く変わらない慣習がまだ残っているのである。調べてみると生産部の人間が前述で述べたように、売場の上司に「ムリ、ムチャ、ムダ」を強要され、また、原材料を残したら怒られるという。

 また、もっと酷い例は、上司に「キャンセルして工場に“ヘッジ”しろ」と言われ、断ったところクビになったという人間にも会った。すべて本当の話である。一時が万事こうだがから、私が提唱するPLM (Product Life Cycle Management )モジュールなどはいるはずがない。なぜならこういうパッケージを導入すると、生産部の悪行が白日の下にさらされるからだ(ことわっておくが、私はすべての生産部が悪いといっているのではない。そういうアパレルもまだあるということだ)。

「今でもこんなことが続いているのか」と絶望的な感覚になった。フェアなリスクマネジメント、フェアなプロフィットシェア、全体最適という言葉は40年も前から言われてきたが、全く業界の体質は変わっておらず、結果的に、ユニクロと3〜5倍の「コスパの差」がつき競争負けする。「霜降り牛化したバリューチェーン」から生まれる商品を、「売り方さえ工夫すれば売れる」とうそぶき、「オムニチャネルだ」「O2Oだ」とJARGON (専門家しか分からない言葉)で煙に巻いている。本当に、アパレル業界に未来はあるのかと私は時に思うことがある。私は、アパレル企業の経営者に、今一度、自社の生産部をしっかり調査することをお勧めする。

 仕入れ先の真の協力があってはじめて、「勝てるバリューチェーン」ができるのだ。私が提唱する解決案の1つは、入社してずっと代わらない生産部の部員をジョブローテーションをおこない、MDや販売員の人に代わってもらう、というものだ。なぜか、アパレルの生産部は窓際が多く、その道何十年という人が多く、絶対に席を譲らない。そこにメスを入れよう。


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