日本のアパレルの手本「アダストリア」強さの秘密と、人気爆発シーインから受ける意外な影響とは

河合 拓
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アダストリアの中計評価 驚愕の販管費率と不安材料

 改めてアダストリアの分析に入る。まず、初年度半期の売上は昨対比121.6%。計画の初動ではあるが、三カ年計画の成長率8%を軽く18ポイントも上回っている。
 これは、前述のTOKYO BASEの事例とは対称的だ。アダストリアの場合、海外事業比率が7%程度しかないため、結果的に中国のロックダウンの影響を受けず国内のコロナ後回復を取り込むことに成功した格好だ。
 逆に言えば、海外事業は台湾と米国としっかりとした意図が見えるものの、現状ではやや全体売上に占める割合は少ないように思う。外食企業の買収など、ライフスタイル提案型カンパニーをめざしているのかも知れないが、アパレルの海外事業はまったなしだ。すでに、東南アジアにもアリババグループやファーストリテイリングが大きな投資をしていることは幾度も書いた通りである。いわゆるコングロマリット化による資源分散が海外展開を遅くしていないだろうか、と老婆心ながら感じている。

 しかし、驚愕すべきは販管費である。私はグローバル企業に比べた日本企業の利益率の低さの理由として、その論点は原価ではなく、販管費にあると述べてきた。グローバル企業と伍して戦うには売上高販管費率は40%台が常識だ。ユニクロの脅威の30%台は別格だが、多くの日本企業は軽く50%を超えている。アダストリアも例外ではなかったのだが、売上高の強い伸張もあるが、販管費の売比は50%台を切って、計画的にコストダウンを行い40%台に落とした。

 また、計画最終年度に800億円の売上をめざすECは対前年同期比103%とやや鈍化しているが、同社のEC事業「ドットエスティ」は大丈夫だろう。
 「オープン化」を掲げているも、今のところ外部出店は化粧品に限定されているようだ。コングロマリット企業の「仲の悪さ」と「効率の悪さ」は目を覆うものがあり、これは日本に限らずコングロマリット企業の運命で、解決案はトップの強いリーダーシップ以外にない。規模の経済は、よほどのことがない限り追うことはできないが、仲が悪ければ悪いほどブランドによる違いはハッキリしてくる。

 さらに、売上高在庫費率も売上なりの水準を保っている点に注目だ。これだけ事業が複雑化しているのに、大したものだ。私は、営業利益率が5%以上あり、流動資産の在庫売上比率が経年で同じなら「問題なし」と判断する。参考までに「問題あり」とみなすケースを示したい。それは、売上に下落兆候があり、売上比で在庫が右肩上がりの場合だ。これを私は「死のX(クロス)」と呼んでいる。実は、現在の多くのアパレル企業に共通する特徴だが、当然アダストリアには傾向は見られない。

 同社の不安材料(といっても、個人的所見になるが)は新規事業だ。具体的にはメタバースとフォーエバー21である。メタバースに関する不安材料は書いたとおりだが、例えば、デビュー当初から疑問をもっていたD2C サステナ・ファッションである。そもそもD2Cの定義論から違和感をもっていたが、しかし、サステナビリティとは、成長経済から成熟経済へ移行する企業の「あり方」であり企業責務なのだ。欧州のようなスーパーメゾンは、ブランド価値向上に繋げられるが、それを中間価格帯事業がそのまま真似をするとキャズムの谷に落ちてゆくからだ。このキャズムを超えるための戦略が見えれば、必ずしも真っ向から否定する立場ではないことは申し上げておきたい。

帰ってきたフォーエバー21は「シーイン」!?

 次に、破綻したブランドの出現である。言わずもがな一世を風靡したフォーエバー21だ。私は前回の論考で、フォーエバー21は苦戦するだろうと申し上げた。そのあと、計ったような時間軸で、あの世界的D2C企業シーインが、日本に本格的に絨毯爆撃を開始しニュース番組や経済番組をジャックしてきている。おそらく、「戦略PR」と思われる手法を巧みにつかった「シーイン現象」は、フォーエバー21を我々の認知の中にあるファストファッションを忘却の彼方に追いやっているわけだ。
 アダストリアは、フォーエバー21をサステナビリティに配慮した、今までのように安くて生地がペラペラの激安アパレルというポジションから一変。型数を絞り込み、サステナビリティに配慮しながらアダストリアのサプライチェーンでものづくりを行う。だが、これにより、価格も上がる。さらに、企画の80%もアダストリアが行う。つまり、アダストリアのブランズがもう一つできあがった、という格好だ。
 しかし、解せないのは、アダストリアも当然きっちりマーケティング分析しただろうと思う。だが、シーイン初の常設のリアル店舗(ショールーム)、原宿店に4000人が列をなしたように、日本の若者達は、結局、安くて品数が多いシーインのポジション(旧フォーエバー21) を求めていたことは明らかではないか。皮肉にもシーインがあれだけの話題をさらったいま、ますますフォーエバー21のブランドポジションは曖昧になってくる危険性がある。ターゲットも違うというなら、その開拓コストは名前による必然性やエンゲージメントが切れた今、相当なコストがかかる可能性もある。この「シーイン騒ぎ」は、裏にPR会社がいることは明らかで。おそらく、フォーエバー21にぶつけてきたと考えるのは言い過ぎかだろうか。いずれにせよ、今のところの勝敗は明らかだ。これからのフォーエバー21の反撃を期待はするが、その前に根本的な「サステナファッション」の再定義をお勧めしたい。

 そのようなわけで、メタバース、サステナファッション、フォーエバー21に若干の不安が残るわけだが、現時点ではアダストリアの売上伸張からいっても投資段階で、それらが仮にすべて失敗しても、アダストリアの成長エンジンにとって現時点ではノイズでしかないし、途中での軌道修正は可能であることは言うまでもない。無茶な投資をしなければ、アダストリアは計画を確実に達成するだろう。

  さて、読者の方は、立て続けにおきた外資ファンドによる日本のアパレル買い、そして、日本的価値観で「フォーエバー21」をしている間に、大規模な戦略PR手法を使い、4000人を並ばせた中国企業シーイン。まごまごしている間に、私の「あってはならない予言」は確実に現実味を帯びてきていることを再認識してもらいたい。匿名投稿で私と内乱を起こしている場合でなく、アダストリアの教科書ともいえる三カ年計画と世の中の動きから、現状の正しい分析と反転戦略を練ることが本日最もいいたいことである。

 

 

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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