EC売上が好調のアダストリアが、リアル店舗への来店誘導にこだわる理由

聞き手:中原 海渡 (ダイヤモンド・チェーンストア 記者)
構成:玉木 成子(フリーライター)
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デジタルでの顧客接点の拡大が進むアパレル業界。その中で近年OMO(オンラインとオフラインの融合)を推進していることで知られるのが、アダストリア(東京都/木村治社長)だ。同社は20215月に、自社ECサイト「.st(ドットエスティ)」と連携するOMO型店舗「ドットエスティストア」を出店。周辺店舗の売上高が大幅に増加するなど相乗効果がみられているアダストリアがOMO戦略を推進する背景にはどのような意図があるのか。同社のEC戦略の責任者である執行役員・マーケティング本部長の田中順一氏に話を聞いた。

 アダストリアはなぜ、OMO戦略に力を入れるのか

「ドットエスティ コレットマーレ桜木町店」
「ドットエスティストア ミッテン府中店」

 アダストリアは「GLOBAL WORK(グローバルワーク)」や「LOWRYS FARM(ローリーズファーム)」をはじめとする30以上のブランドを抱え、国内外で1400超の店舗を運営するカジュアルファッション専門チェーンだ。225月には子会社のゲートウィン(東京都/杉田篤社長)を立ち上げ、アメリカ発のカジュアルブランド「フォーエバー21」とサブライセンス契約を結び話題になった。

 アダストリアのEC化率は28.7%(20232月期実績)を誇り、ドットエスティの会員数は約1550万人を誇る(同実績)。この数字が表すとおり、これまでEC化を積極推進してきたアダストリアは現在、ドットエスティとリアル店舗の連携を深めて相互補完が可能な体制をめざしている。ドットエスティだけで買物体験を完結させるのではなく、ドットエスティからリアル店舗へいかに誘導するかを重要視するというものだ。その理由について田中氏は以下のように語る。

 ECによる販売促進には限界がある。人間の五感のうちECでアプローチできる感覚は視覚のみ。その点、リアル店舗は五感すべてに訴えかけられる。また、LTV(顧客生涯価値)が高いのはEC会員よりも店舗会員だというデータもある。EC化率は指標のひとつに過ぎず、単にEC化率を上げただけではビジネスとして拡大したことにはならない。ECとリアル店舗、双方の売上高を伸ばしていくことが重要だ」(田中氏)

 こうした考えのもと、アダストリアではドットエスティ内でリアル店舗へと誘導するイベント告知などを行い、リアル店舗とECの共存共栄を図ろうとしている。21年に出店したOMO型店舗の「ドットエスティストア」もそのための取り組みの一つだ。田中氏は「各ブランドの商品が集結するドットエスティの強みをリアル店舗に落とし込んだのがドットエスティストア」と語る。

「ドットエスティ コレットマーレ桜木町店」内観
「ドットエスティ ミッテン府中店」内観

 また、ドットエスティが「リアル店舗への集客装置」として働くようになったことで、消費者の購買行動がかつては「店舗からECへ」だったのが「ECから店舗へ」と変化していると田中氏は説明する。

 その変化は実績としても表れており、20232月期は国内のEC売上高が対前期比108.9%、リアル店舗売上高が同116.8%と、ともに伸長し、国内のアパレル・雑貨関連売上高は同114.5%に推移している。

 

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聞き手

中原 海渡 / ダイヤモンド・チェーンストア 記者

神奈川県出身。新卒で不動産仲介業の営業職に就き、その後ライター/編集職に転身。

2022年10月に株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア入社。ダイヤモンド・チェーンストアオンライン編集部記者として記事執筆・編集を行う。

趣味は音楽鑑賞(ポップス/ロック)と、最近はレコード&カセット収集。フィジカルメディアが好きで、本も電子書籍より実物派。

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