ユニクロ失速の秘密&通販KPIを活用した成熟時代の新しいアパレルビジネスのKPIとは

河合 拓
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これからの成熟経済下、利益の計測方法はこうなる!

今の製品・市場の構造をモデル化すれば、「10人しかいない市場に、20枚の服を叩き売りあっている」状況である。だから、どんなに頑張っても、競争関係が均衡していれば消化率が50%を超えることはない。もし、あなたの会社の最終消化率が70%なら、どこかの同じ売上のアパレル最終消化率が30%になっていなければ計算が合わない。
あなたの会社の在庫が頑として極小化しないのは、1リットルのバケツに2リットルの水を無理に入れようとしているからだ。これは、トレンド予測の問題もなければ、提案力の問題でもない。物理の問題なのである。なぜこんな単純なことが分からず、AIの需要予測などに手を出すのかが理解できない。

こうした環境では、海外に出なければ未来はないことは、火を見るより明らかだろう。私が、「Tokyo showroom city戦略」を提言しているのはそういうことだ。ただし、東京における高いブランドパワーをレバレッジ に海外で売る戦略である以上、日本の市場でもそれなりに高い競争力を持ち、売上を維持することは重要だ。

そこでまず重要になるのが、お客さまをブランドファンにし、ハウスカードに登録してもらう、というものだ。これにかかるコストが、通販でいうCPA(Cost per Acquisition/Action、顧客獲得単価)だ。
日本のアパレル企業は、この「ブランドファンになってもらう(=顧客の獲得)」というステップを、ハウスカードに登録してもらう前にしっかりやっていないから、簡単に顧客は離脱してしまう、あるいは、ディスカウントメールかクーポンにしか反応しないのである。
今、アパレル企業が「離脱」を防ぎ、そしてセット率や購買頻度を上げるには、「ブランド化」が命となる。

顧客の「客単価向上」、「顧客育成」、「離脱防止」を実現するもっともよい方法は、「ブランド化」だ。「ブランド力をどうやってあげればよいのか」と質問をする人が多いが、そんなに簡単にブランドが作れるはずがない。ぜひ、拙著『ブランドで競争する技術』を手に取ってもらいたい。

CPA」は「売らないお店」のこと、CPO(Cost per order、注文1件あたりの販売コスト)は「従来型店舗」だと考えれば良い。ライブコマースやお店の立地条件がAcquisitionOrderへの誘引である。このように、事業の儲け方を再考し、収益力を計算し直してはどうか。

 

これまでは、貢献利益、営業利益、経常利益という考え方だった。
だが、これからの成熟経済、循環経済の元では事業の「儲け方」は、

  1. CPA<LTV(客単価/年 x 離脱までの期間 x 粗利率)
  2. 流入顧客 > 流出顧客 (ROAS*向上とブランド力強化)

へと計測方法が変わってくるのだ。
*Return On Advertising Spend、広告の費用対効果

 ECとリアル店舗が入り乱れ、ビッグデータによる顧客管理がいっそう大事になってきた今、次世代の管理会計に頭を悩ませている方も多いだろう。本稿が解決案の一助となれば幸いである。

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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