ZARAとユニクロだけがなぜ余剰在庫を撲滅できるのか?本人達も気づいていないメカニズムとは

河合 拓
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あけましておめでとうございます。
この「河合拓のアパレル改造論」も3年目を迎え、様々な切り口から過去の教科書、常識を疑い、山のように動かない「鉄の産業」といわれてきたアパレル業界に様々な切り口で問題提起を投げかけてきた。この間、従来3年と思っていたことが1年で古くなり、恐ろしいほどのスピードで産業界は変化を遂げている。私は、可能な限り専門用語を避け、一般ビジネスパーソンでも理解できるように平易な言葉で、「こうして産業は衰退する」と、産業衰退の原因の多くは「人災」であることなどを細かく事実ベースで語ってきた。

geengraphy/istock
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さて、2022年、最初のテーマは「リードタイム」に対する産業界の誤解である。私が、あれほどかみ砕いて「リードタイムは長くて良い」と説明したにも関わらず、相変わらず「リードタイムは短い方がよい」という、なんの根拠もない常識を疑おうともしていない。リードタイムを短くするのは回転率をあげることで、それはトレンド回転率、商品回転率、現金回転率の3つの回転率」を、それぞれ別々に管理しなければならないという意味なのだ。

その結果、PLM (Product lifecycle management 生産発注を自動化するパッケージソフト)を導入すればリードタイムが短くなり、加えてSDGsに則ったトレーサビリティにも対応できると、各社はなんの関係もないデジタル技術ををあちこちで導入し始めた。環境省が主導する「サステナブル・ファッション・アライアンス」と何の連携もしておらず、プラットフォーマーを、全て外資にとられ、かつ過剰投資さえしているということで、国家問題の様相を呈してきた。

「これからは必要な商品だけ作る」は真っ赤な嘘

どのアパレル企業も、2022年からはじまる三カ年計画で、SDGs対応から「これからは、消費者が必要な商品を必要な量だけ販売する」と判を押したように言っている。だが、そんなことができるのなら、なぜ、今までやってこなかったのかまた、そもそもどうやってやるのか。
実際、いまも中間流通と呼ばれる商社、企画会社、問屋達は「アパレルのためにQR (Quick response)に力を入れると口を揃えている。だが、私からいわせれば、売る力のないアパレルの無計画な生産にお付き合いしているだけだ。それ(伝統的OEM)以外の戦略を考える力さえ無い、としか聞こえない。そもそも、QRが、日本のアパレル企業の救世主なら、なぜ人口も減っていないのに市場規模がこの30年で5兆円消滅し、また、アパレル企業の投入量は市場規模の2倍という信じられないような過剰生産になっているのか説明してもらいたいものだ。つまり、30年前にはじまった、大手アパレルのQR対応は、余剰生産防止にも欠品撲滅にも寄与していないことになり、産業界を一層破壊していることになる。

海外トップ・メゾンから高い評価を受けているイメージ・マジック
海外トップ・メゾンから高い評価を受けているイメージ・マジック

そうしたなか、日本で業績を大きく伸ばし、世界のLVMHにも認められた企業がある。山川誠社長率いるイメージ・マジックだ。同社は、セル型生産方式で、オンデマンド・プリントという個別生産をマスプロ対応する技術を用い、コロナ禍にも関わらず工場を拡大し業績も拡大しており、本年度中に上場を目指すという。私は、山川社長からの度重なるオファーを受けて同社を訪問、以来方々で絶賛しているのは周知の通りだ。私はある場で、「この企業が、日本の売る力のないアパレル・小売のために、利用されているだけなら産業界にとって良いことではない」と発言した。
せっかくの優れた技術を持つイメージ・マジックでさえも、この選択 (OEMOEMからの脱却か)を誤れば、上場はおろか日本の弱体化したアパレルと心中することになるからだ。

 

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