「低価格×デザイン」だけではない しまむら好調、もう1つの理由とは
今、「価格は正義」である。日本人が「中価格帯」と呼んでいる(国際的には高価格帯)セグメントは早晩、アジアの低価格帯アパレルにやられると私は考えているのだが、いわゆる低価格帯のアパレルは、損益分岐点が低いから低価格で出せるわけでなく、売り方がうまいから低価格帯で売ることができるのだ(単に安く売るということではなく、大量の商品をプロパー価格で売るという意味である)。
詳しく解説すると、原価2000円の商品を5000円で販売するビジネスは、低価格販売のおかげで、たくさん売れる。だから、彼らのプロパー消化率は80%前後とほとんど値引きはしない。このあたりの見せ方は、ディスカウンターはきわめて上手だ。とくにユニクロは消費者が休日に店頭に来るのにあわせて目玉商品を値引きするというダイナミックプライシングを採用し、消化率をあげながら残品率をほとんどゼロに近くにコントロールしている。
それに対して、中価格帯(国際的には高価格帯)アパレルの平均プロパー消化率は35%から40%といわれ(これは正確な統計がとれていないので、有識者達との議論や自身のコンサルティングで落ち着いた値を使用している)、半分以上がセール売りである。また、市場が縮小しているなか売上維持、あるいは売上向上を目指すため、余剰在庫と余剰在庫の評価損が恒常的に発生しており、それらを丸めて粗利率60%をつくっているのだ。つまり、売れない前提で利益を出すための値付けをしているのである。
しまむら好調の秘密は競争環境と
ビジネスモデルがマッチしたから
もちろん、値段は利益率を上げるだけでなく、ブランド力を維持するためなど、異なる目的もある。しかし、それだけで本質的に変わらないブランド間の衣料品販売に差が出るとは思えない。ましてや日本の「ブランド」は名ばかりで、消費者もブランドを気にしない(ブランド顧客率は10-20%程度)のだ。ほとんどの人が、ブランドを気にせず自分が「かわいい」「欲しい」と思ったものを購買する。
ここでしまむらに戻すと、好調の秘訣は
「低いEC化率による地方での実店舗販売」 x 「グローバル基準の適正価格」
が、コロナ禍による競合のECシフト、日本人の可処分所得の低下、が相まって極めて「しまむら」に競争環境が有利に働き、そこに、彼らが言うMD精度の向上など「オペレーション・イフェクティブネス」(作業効率、生産性)が高まり、機会ロスが激減したということになる。
今、アパレル産業は大きな変わり目にきている。「うまい、早い、安い」の三拍子だけで競争に勝てるほどビジネスは甘くない。今、好調に業績推移しているアパレルも、私は多くは「アンコンシャス・ウィン」(盲目的勝利)ではないかと見ている。つまり、事業環境が自社に偶然有利に働いていることに気付かず、オペレーショナルイフェクティブネスを高めるも、例えば上代値下げを辞めるなどが功を奏して勝っているということなのではないか。ユニクロの国内での成長も鈍化しているように、緻密なマーケティングをキッチリ進めている企業が一つの羅針盤とするなら、今日本のアパレルにもとめられるのは「好調の原因」をきっちり分析し、再現可能なものなのか否かを見定めることである。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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