「低価格×デザイン」だけではない しまむら好調、もう1つの理由とは

河合 拓 (代表)
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地方と都心の差を考える

 いくつかの要素を分析してきたい。

 まず、百貨店の好調に関して結論を出しておきたい。これは「インバウンド需要」一択である。円安がさらなるインバウンドの呼び込みにつながり、日本における高価格帯衣料が、外国人にとっては中価格帯、低価格帯に「落ちた」ことが大きな要因だろう。ある百貨店アパレルのプロパー消化率は90%を超えているという話を先日聞いて驚いたほどだ。ただし、これは「インバウンド流入」 x 「コロナ明けリベンジ消費」 x 「円安によるお手頃価格」の3つがセットになったうえに、「値下げはいかん」という2022年から続くトレンドが乗っかった偶然の産物で、地政学要因による競争環境の変化が大きいと私は観ている。

 次に、地方と都心の差についていていきたい。実は、地方のリアル店舗のアパレル売上はコロナによって破壊されてはいない。しまむらの場合、ご存じの通りECの年間売上は40億円程度で、EC化率は7%程度(232月期、242月期上期では10%弱)。ほとんどがリアル店舗なのだ。この「地方」 x 「リアル店舗による販売」 x 「低価格」というかけ算が同社に追い風を呼び込んだとみれば良い。実際、EC化率が90%を超える某ディスカウント・アパレルは地方に強いのだが赤字になっている。10年前は、一人の客が百貨店のような高額品を扱う業態からショッピングセンター(SC)のような業態、あるいは総合スーパーのような業態を使い分けて衣料品を買っていたが、今は顧客がハッキリと分かれてきている。それが、冒頭のような一見不可思議な現象を生み出しているのだ。

価格のマジック
5000円でも1万円でも原価は一緒

 アパレル・ビジネスが難しい理由の一つに「プライシング」と品質の関係がある。例えば、下の図をみていただきたい。

 

 左が2000円の商品を1万円で売るビジネス。右が2000円の商品を5000円で売るビジネスで、読者のみなさんに注目してもらいたいのは、「粗利率」である。なんと、同じクオリティの商品の上代を1万円から5000円の半額にしても、粗利率は5ポイントしか変わらないということである。これは、どちらがプロパーで売り切ることができるのか、という「状況」に大いに依存するからだ。左は、百貨店アパレルやファッションビルで戦っているアパレルで、右はあのユニクロはじめ、ハニーズ、しまむらなど低価格を武器にひっさげ高収益を稼いでいる業態だ。

 

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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