アフターコロナ ネットスーパーとクイックコマースが成長、収益化のためにすべきこととは

松尾 友幸 (ダイヤモンド・チェーンストア 記者)
Pocket

店舗出荷、大規模センター以外の選択肢も!

 しかし本特集で実施した消費者調査によると、実店舗とネットスーパーを併用している人の比率はまだ3割にも満たず、クイックコマースの利用経験者は1割を切っている。また、現在ネットスーパーを利用していない人のうち9割以上が今後も利用しないと回答している。さらに、コロナ禍の行動制限が解除された現在、以前のライフスタイルに戻り実店舗での買物が増えたり、値上げの影響で配送料がかかる割高なネットスーパーを使わなくなったりした人もいる。矢野経済研究所の予測では、26年度までの食品通販全体の市場規模は21年度と比べてやや減少傾向にある。

 ネットスーパーもクイックコマースも一定のニーズ自体はあるものの、このように売上規模拡大の懸念事項は少なくない。また、共通の課題として収益性の低さも挙げられる。事業単体で黒字化している企業は少なく、売上拡大でも収益性確保においても課題が山積しており、事業を軌道に乗せるための仕組みづくりが急務である。市場規模がまだ大きくない状態では、新規利用者を獲得するための販促やマーケティングが肝要だ。とくに地方ではまだサービス自体の認知度が低く、店舗での宣伝やポイント・アプリ会員に向けたメルマガ配信、クーポン配布などで利用者を増やしていく必要がある。そのうえで継続して利用してもらえるように、生鮮食品を中心に実店舗と同等の鮮度や安全・安心を担保しつつ品揃えを拡大し、定着率を高めていくことが重要だ。

 品揃えを拡大するためにカスミ(茨城県/山本慎一郎社長)が導入しているのが、エリア内の複数の店舗を合わせた品揃えで商品を提供する「ローカル・フルフィルメント・ストア(LFS)」という手法だ。各店舗の在庫を可視化し、エリア内の複数の店舗の在庫を重ね合わせて、オンラインデリバリー上の品揃えを拡張しており、これにより注文件数も伸びているという。

 日本のネットスーパーは、売上規模や1日の注文件数が限られていることなどから大半が店舗出荷型だ。投資に見合う大きな売上が必要な大規模センターを活用しているのは一部の大企業に限られているが、カスミのLFSや、ROMS(ロムス:東京都/前野洋介社長)が開発しているナノ・フルフィルメントセンター(NFC)など、日本の商圏や各社の状況に対応した仕組みや施設も登場している。

 また、売上を伸ばすには、頻度を高めることはもちろんのこと、注文1件当たりの購入点数を増やす工夫も必要だ。客単価が上がればそれだけ粗利も確保しやすい。有効策の1つが、一定以上の金額を購入することで配送料を無料にするサービスだ。西友(東京都/大久保恒夫社長)が楽天グループ(同/三木谷浩史会長兼社長)と共同で運営する「楽天西友ネットスーパー」では、購入金額5500円以上で配送料が無料となっており、利用者はこの金額になるまで20品目以上を購入する傾向にあるという。

1 2 3 4

記事執筆者

松尾 友幸 / ダイヤモンド・チェーンストア 記者

1992年1月、福岡県久留米市生まれ。翻訳会社勤務を経て、2019年4月、株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア入社。流通・小売の専門誌「ダイヤモンド・チェーンストア」編集部に所属。主に食品スーパーや総合スーパー、ディスカウントストアなど食品小売業の記者・編集者として記事の執筆・編集に携わる。趣味は旅行で、コロナ前は国内外問わずさまざまな場所を訪れている。学生時代はイタリア・トリノに約1年間留学していた。最近は体重の増加が気になっているが、運動する気にはなかなかなれない。

関連記事ランキング

関連キーワードの記事を探す

© 2024 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態