勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
真実3「自社のEC事業に損益責任を持たせてはならない」
次に、2023年はオムニチャネルからOMOへとECの立ち位置が大きく変わってきた年でもあった。一昔前は、「リアル店舗は日中に外でお買い物」、「ECは夜に家の中でお買い物」と、購買する場所と時間で事業をわけていた。わけていたがゆえにリアル店舗とECで別々の事業と見なし、それぞれに「P/L(損益)責任」を持たせていたわけだ。
しかし、すでに消費者はこのような買い方をしていない。例えば、私などは家電量販店にゆくと実機を触って質感やデザインなどを自分の目で確かめ、アマゾンや価格ドットコムで家電量販店と比較する。ネットの方が安い(その場合がほとんどだ)場合、実際の購買はアマゾンや価格ドットコムなどで探し出し、スマホ決済する。結局、ナショナルブランドを取り扱っている以上、どこで売っても同じ商品なのだから安い方で買う。ECというのは、購買に至るためのチャネルであってECで買うことそのものは目的(事業)ではない。だから、企業内で、リアル店舗とECで別のP/L責任を持たせるのは誤った考え方と言わざるを得ないわけだ。例えば、卸業態と自社運営店舗がミックスした販路を持っている場合、同一ブランドであれば事業をわけたりしないだろう。
これと同じ理由からECに独立したP/L責任を持たせるのはおかしいことになる。仮に、ECをリアル店舗と別事業ととらえると、EC専用の在庫を仕入れたりECだけのキャンペーンを行ったりして、ECとリアル店舗の融合が進まなくなる。ECは横串事業として縦(事業部制)を大きく括る組織体にし、いっそ、決済と在庫はすべてECに集約すべきなのだ。これも、黎明期と今でECの役割が変化してきた事例である。
真実4「ディスカウンターが低価格なのは損益分岐点が低いからではない」
ユニクロ、GU、しまむら、ハニーズ。いわゆるディスカウンターといわれる業態が好調で、いままで百貨店向け、あるいはファッションビル向けに事業を行ってきたアパレルではこの低価格は太刀打ちできないと思うかもしれないが、この考え方は間違っていることは前回の論考で証明したとおりだ。
ディスカウンターが低価格で競争に参入できるのは、いわゆるMBAで教わる「規模の経済」→「単品当たりのコストダウン」→「低価格化」ではない。
例えば、今、中価格帯と呼ばれるアパレルのプロパー消化率は50%前後、オフ率は50%、残品率は10%で、企画原価率が35%程度あたりと思うが、まさにこの数字がしめしているように、このアパレルにはプロパーで商品を売る力は全体の50%程度しかないことになる。つまり、正規価格で半分しかうれなくても利益がでるように最初から計画しているわけだ。だから、正規価格がこの歩留まり分を価格に転嫁して高価格になるのだ。いわば、この歩留まり分はすべて消費者が買う価格へと転嫁される。
ならば、最初から50%ディスカウントにしてグローバル基準に価格を直し、むしろプロパー消化率を高めるべきなのだ。プロパー消化率向上というと、すぐにQRを思い出し、刻んで投入すれば消化率は上がるというのは危険な発想だ。今、こうした考えが誤りだったことに気付いたディスカウンターは、むしろ大量に工場に生産依頼を行っている。それによって、細々とした発注しかだせない日本のアパレルの生産を後回しにさせている。その結果、日本のアパレルのリードタイムはいっそう長期化しているのだ。
これに対して、ディスカウンターは、そもそもの建値を最初から低くして、薄利多売で商売をしている。2000円の原価の商品を、5,000円で売っても、10,000円で売ってもプロパー消化率が高ければ粗利率は双方どちらも60%近くなることは前回述べたとおりだ。円安と材料高によるコストプッシュ型の原価高に思われがちだが、実態は、「値付け」の問題なのである。ここも多くの企業が気付いていない。