衝撃!SPA業態そのものには優位性がない、本質的な理由とは
機能を持つことは、責任を持つということ
それでは、「機能」を持つとはどういうことか。これは、「責任」を持つということと等しい。例えば、小売が協力工場に対して自主企画商品を生産させる場合、その協力工場は、過剰在庫が起きたとしても、他社に販売することはしない。あくまでも、発注をした小売専用の商品をつくり、小売は生産した数量を全量買い取る義務が発生するわけだ。
したがって、シーインやDholicのように、広東省の工場群、韓国東大門の工場群に残っている商品を多くの小売が仕入れて同じ商品を販売しているような業態はSPAとは言えないわけだ。そして、アジアではこうした小売機能に徹した小売のビジネスモデルの方が主流で、在庫をもたない強みを生かしてSPAを次々となぎ倒しているわけだから、ここでもSPAが必ずしも強いとは言えないのである。さらに言えば、もしSPAだから強いのであれば、米GAPが苦戦し続ける説明もつかないはずである。
そもそも、例えば楽天とアマゾンをどのように使い分けているのかと聞かれれば、「●●の方が品揃えが良いから」と答える人は少なく、結局は「ポイントを貯めているから」「Amazonプライムに入っているから」など、付帯的なサービスで競争しているのである。
ここには「KPI」も大いに関係してくる。
工場を持つと「稼働率」を高める必要がある。工場を「休転」させれば、商品ひとつあたりのCMT(工場のコスト)が上がってくるため、可能な限り安定的に工場は同じことをしなければならない。一方、小売は「欲しいときに、欲しい商品が、欲しい量だけ」必要で、これは、工場の稼働率と背反する。
コスト削減のためには生産稼働率を安定化させることが重要で、アップサイド(売上)をあげるためには、売れる商品が、売れるタイミングに、売れる数だけ投下されることが重要だ。つまり、工場の生産稼働率の安定化とは相容れないのである。
ここを、複数のアパレルのOEMを請け負うことでオフセット(矛盾を相殺)し、買い付けによる生産の安定化と販売による商品投下の柔軟性を共存させるため、商社が真ん中にはいって、そこで生じる矛盾を解決してきたわけだ。こうして生まれたのが「日本型SPA」なのである。今、百貨店も地方からは家賃商売を始めたし、小売も安価な自主ブランドを強化してきてから、今、SPAか否かという業態論を語っても意味が無いのである。
むしろ、今勝っている企業は「ノン SPA」だ。シーインしかり、ZOZOしかり、楽天ファッションしかり、である。ZOZOは一時期製造機能を持とうと考えていたようだが、私は今の「小売」としての立ち位置をデジタル技術で強化すべきだと思う。また、インバウンドで一時的に潤っている百貨店も、SPAに手を出すのでなく、在庫責任をもたない「個客」(顧客ではない)をしっかりつかみ、満足度を上げる「サービス価値」こそ、強化すべきだと私は思う。これも、脱SPAである。
SPA業態に優位性がない、本質的な理由
まとめよう。
SPAとは、製造小売と訳され、製造と小売の両方を自社でやっている企業という考えは誤りで、小売発の企業が「機能」として製造機能を持つ、あるいは、製造業発のアパレル企業が「機能」として自主運営店舗を持つことであり、この業態そのものに優位性はない。実際、今勝っている小売企業は、製造設備を抱えて在庫リスクを持つより、大量のマーケティング費用を投下して「顧客」(個客ではない)を何十万人、何百万人と保有することである。
SPAが強いというのは錯覚で、小売で強い企業は優良顧客のデータベースを持っていること。アパレルメーカーで強いのは、独自性の高い商品をつくることができる技術をもっていること、であり、SPAであるかどうかとは関係ないのである。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
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