同じ低価格なのに… GUが、しまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由

河合 拓 (代表)
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990円デニム戦争でファッション専業SPA

ジーユー
 そんなとき、野菜のSPA化で失敗した柚木氏がGOVリテイリングに乗り込み、「ユニクロベーシック衣料の半額」というコンセプトで黒字化を果たす。そのキラーアイテムが990円ジーンズだった(注:当時のジーユー社長は中嶋修一氏<現ファーストリテイリンググループ上席執行役員>で、柚木氏は副社長)。

 私の理論では「価格は戦略変数ではなく価値の大きさを表す定量指標に過ぎない」というものだったが、さすがに1000円を切る商品価格はマーケットに衝撃を与えた。この990円ジーンズは当時、三菱商事を筆頭に商社の管理化におかれていたのが実体である。私自身が同社の相談にのっていたからよく分かっている。ちなみに、SPAと直貿の違いを理解していない人が多いが、SPAというのはPrivate Brand Apparel、つまり、商品レーベルを自社化する(商品責任を自社がとる)という意味で、バリューチェーンのビジネスモデルによる分類ではない。

 当時の商社の悩みはこのようなものだった。「河合さん、もし990円のジーンズを日本人の50人に1人が買い(購買人口が1億人として)、20万本売れたとします。それでも、売上は2億円にも届かない。商社のブレークイーブンは60億円だから、我々は全く儲からないんですよ。また、売上の10%をマージンで抜いたとしても(ファーストリテイリングは売上マージン5%以下で商社を使っていた)たったの2000万円で、1人分の人件費にも満たないんです」

  数字とは恐ろしい。990円ジーンズ合計20万本といわれれば「今世紀最大のヒット商品」だと考えてしまうし、メディアも今読めばわかるが当時は「儲かってしかたない。これで黒字化した」と書かれていたが、そんな一発勝負で勝敗が決まるほどファッションビジネスは簡単ではない。商社は、デニムビジネスや低価格ビジネスから撤退を検討していたのである。これが事実だ。

  その後、ジーユーはどんどん世界化を目指すユニクロを横目で見ながら、国内に止まり継続的な成長を実現。本稿執筆時点で最新期(※2日後に最新決算が発表となる)の20228月期は減収減益で売上2460億円、営業利益166億円(営業利益率6.7%)となった。ちなみに、同社のコロナショック発生直後の20208月期の業績は、売上高2460億円で営業利益218億円(8.8%)だった。

 かつてジーユーは、ユニクロのようなベーシック商品を安価に販売するサプライチェーンに、ファッションのボラティリティ(不確実性)を載せるビークル(乗り物)たりえないジレンマに苦慮していたように思う。そして、それらを克服し、縮小する日本市場から柳井氏の持論である「世界で勝てない企業は日本でも勝てない」の通り、グローバルファッションカンパニーを目指し世界化へと踏み出した。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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