ユニクロやZOZOは知っている シンプルにビジネスを変えるために覚えたい「デジタル化の本質」とは

河合 拓
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シンプルな戦略コンセプトこそ
強く、正しく、企業を導く

 次に「バリューチェーン」について考えたい。

 バリューチェーンとは、価値連鎖などと訳され、製品(工場の製造物)から商品(店頭での販売物)までのライフサイクルの道程を指し、工程ごとに製品(または商品)に付加価値を与え、最終的にマーケットに創出されるという概念だ。

 アパレル業界では、このバリューチェーンが、激しくフラグメント(分断)化されており、実際に製造を請け負っている商社でさえ、時にどの工場で生産されているのかわからないほどだ。SDGsにおいて重要な「トレーサビリティ」などあったものではない。サブコンにサブコンが組み合わさって、複雑怪奇なモノ、カネ、情報の流れとなっている。

 こうした「ものづくり」を最適化するのが、PLM (Product lifecycle Management)と呼ばれるパッケージソフトウエアである。主たる製造元は米国だが、いわゆる企業の「企画(アパレルでいえばMD業務)」、「生産(アパレルでいえば素材と付属発注、および組み立て工程)」、「流通(アパレルでいえば、海外からの貿易業務)」、「販売(アパレルでいえばECやリアル店舗販売)」の一連の流れとなる。

 アパレル業界では、販売はリテーラー、流通は商社、生産は海外工場で、企画はアパレルと考えればよい。

 冒頭の「大物」のシンプルなコンセプトに当てはめて考えれば、アパレル業界におけるバリューチェーンの全体最適化のためには、「どこかがクラウド上にPLMパッケージを上げ、それを、複数のバリューチェーン(ものづくりの流れ)を司る企業群が、共同で活用すれば良い」、ということになる。また、こうしたサプライチェーン(ものの流れ)を何本も束ねれば、産業効率も上がるし、実際に、クルマ業界などは、企業間を超えてそのような動きになっている。

 マーケティングのデジタル化(デジマ)もそうだ。顧客の動きを顧客接点のB2C企業の活動とするなら、それらをECによって吸い上げて、顧客の購買履歴データ(ダイナミックなデータ)をAIなどを使って分析し、顧客とのエンゲージメント(顧客との長期的な関係を強固にすること)を高めてゆけばよい。決して、商社などの中間流通が、Placeを考えるなどトンチンカンな話にはならないはずだ。このように、シンプルな戦略コンセプトというのは、かくも強力で、私たちを正しい方向に導いてくれる。

 しかし、現実はどうか。バリューチェーンを司る企業が、他社を出し抜いてでも自社に利益誘導するという「個別最適」に走り、また、デジタルベンダーも自社パッケージを個別企業に営業販売しようとする。おかしいなと思って調べてみると、米国や欧米などは、商社という中間流通は存在せず、バリューチェーン全体は極めてシンプルでスタティック(静態的)である。あまり茶化すのは本意では無いのだが、日本のデジタルベンダーは、こうした米国と日本の彼我の差を理解せず、米国から「日本は世界で最もでかいアパレル消費国の一つだ。PLMパッケージを入れろ」とプレッシャーをかけられ、個別最適営業をやっているように見えて仕方ない。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

河合拓氏_プロフィールブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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