ユニクロに負けずに利益を上げる!アパレル2024年「5つの論点」解決策とは

河合 拓 (代表)
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価格の安いユニクロ、しまむらに負けずに利益を上げる方法とは

winhorse/istock
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 次に論点4である。

 論点4は、はじめから売れないことを前提に売れ残りや値引きを織り込んだ高額な値段をつけ、最終的に粗利率を60%程度とるか、値引きせずに売れる前提で前者の半額ほどの値段をつけ、最終的に粗利率を60%稼ぐかの違いだ。不況の日本経済下では後者が圧倒的に有利であり、しまむら、ユニクロ、ハニーズなどはみなこの方法をとっている、という話だった。

 「ならば、同じことをすればよいではないか」というのは、あまりに安直である。なぜなら、いきなり価格を半額にすれば、それはもはや消費者にとって違うブランドとなるからだ。

 ここで提案したいのは、最終価格を100%とすると30%が値引きか評価損・減なのだから、逆に考えてみるというものだ。

 例えば、価値を高めるというのも検討しうる方法だ。例えば、ユニクロはカシミヤを1万円弱から12500円に価格を上げたり、他ブランドとのコラボレーションで、さらにデザイン料として値段をあげている。

  ディスカウンターは、これまで低価格で売ってきたため、なかなか値段を上げつらい。しかし高価格帯のブランドが、そのブランドを「プライス・アンブレラ」(価格基準値)としてお手頃商品、つまり絶対価格は高いが、価値はそれ以上に高いものをつくる、ということである。

 例えば、ユニクロはウールのエクストラファインの梳毛セーターを3000円前後で売っているが、これを肉厚にして5000円で売るという戦略だ。ユニクロのエクストラファインは薄く、おそらく150 ~ 200gぐらいと思われるが、これを250gぐらいの目付で、5000円で売るわけである。上代を下げられないなら、コストを上げることで同じコスパを実現するという戦略だ。

  くどいようだが、ディスカウンターの価格が安いのは損益分岐点が低いからではない。「値付けに歩留まり分を織り込んでいるのかいないのか」という点が違うのである。だから、冒頭に上げたD2Cとあわせて、コストを上げれば論理的にいって利益率は増えるはずだ。コンサルという職業上、実際のアパレルの名前を挙げられないのが無念だが、実際に最近手伝った高価格ブランドは、欠品だらけではあるものの、値下げをせず(歩留まり分を価格に転嫁していない)に、プロパー消化率は80%を超えていた。また、上にあげたディスカウンターのプロパー消化率も、あまねく80%を超えている。

 これも、実際の訴求価値をどこにおくかはご自身で考えてもらいたい。もちろん、私と一緒に考えてくださるという方がいらっしゃれば、いつでも飛んで行く。これが、私の回答である。

論点5SDGsの“残念な”解決策とは

 最後に論点5SDGsである。

 これは、はっきりいって国の責任であり、個社でどうにかできる話ではない。例えば、バングラデッシュでおきたラナプラザ倒壊事件について考えてみよう。日本には建築基準法があり、また、義務教育制度がある。私たち日本人はこうした国が定めた法規制の中で生活しているわけだ。だから、その基準にしたがって建物を建てるし、未就学児童がいないよう義務として教育を受けなければならないわけだ。これを、倫理や「ひどいことするな」というような感情論で閉じ込めようというところに無理がある。

 これについて「ファストファッション企業など製造を委託していた大手アパレルの責任である」と断じるのは、間違ってはいないがシステム、仕組みとしては不十分だ。これは、国が国に対して言うべき産業政策とも言えるもので、一企業がどうにかできる問題ではない。

 いわば、企業はアクセル。法規制がブレーキの役割を果たして我々人類を正しい方向へ導いてもらわなければならない。例えば、タンパク質のような、何度も再生可能な繊維を使う場合、輸入税を免除するなどである。そうやって、経済合理性と企業の進むべき方向を官民が歩調をとりあってゆくべきなのだ。

 すでに、フランスでは、洋服を捨てるとペナルティが科せられるなど、「国」がSDGsに介入している。私は、2年前からずっと同じことを言っているのだが、日本政府は放置プレイを続けている。SDGsはスーパーブランドにとって、ブランドエクイティ(ブランド価値を形成するもの)だが、一般アパレルにとってしてみれば、コストでしかないということをまずはしっかり合意することである。

 「神の見えざる手」では、今後マスボリュームを形成するであろう超低価格アパレルに対して、SDGsが通用することはない。

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プロフィール

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

 

筆者へのコンタクト
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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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