無印良品の一部となる三菱商事ファッションとユニクロ:Cの成功が意味することとは

河合 拓 (代表)
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時代の流れをここまで読んでいた!それがユニクロ:C

 ユニクロ:Cの上代は高い。さすがの私も昔のようにクレジットカードを妻に渡して「好きなモノを買え」とはいえない価格になってしまった。カシミヤなど、部分的に出ていたが、なんとケーブル編みでリンキングの部分は縫製ではない。つまり、手作業でつくっているのだ。やや縮絨(しゅくじゅう:製品を編み縦後に洗うことでカシミヤ独特のぬめり感を出す)が弱く、ごわついたところはあるが、そこは値段を考えればお約束というものだ。

  ワンピースは素晴らしいの一言で、マッシュスタイルホールディングスの主要ブランドに似た縫製やダーツの仕込みなど手がはいっており、シルエットもマーメイドでとても綺麗で万人向けを狙ったものではない。やはり着てもらうと本質がよくわかる。ただ、同店舗にゆく道すがら2人に「ユニばれ」したので、そこをどう考えるかということはあろう。なにせ、でかい業態なので、「ユニかぶり」がおきても不思議ではない。

  さて、そうした懸念はあるも、私は、ファーストリテイリングはここまで将来を読んでいたとみている。委託先がどんどんなくなってあたふたしているアパレル企業を横目で見ながら、「ユニクロはベーシックで、ファッションは俺たちだ」と未だにうそぶいているアパレルに絨毯爆撃を仕掛けるなら今だと考えたのだろう。また、数年前の「直貿化宣言」により、自社調達がスタンダードになっているいまの低いコスト構造によって、一気にアジアのドミナント化を狙いにゆくというわけだ。私が再三「今、最大のリスクは何もしないことだ」という意味がお分かりだろうか。 

 素材についても、技術者から見て完璧でないからといって、中途半端な素材でも巧みなマーケティングによって圧勝するのが今のユニクロだ。それによって多くのアパレルは、例えば「ポリエステル再生繊維」のような真にサーキュラーとはいえない素材に根こそぎ市場を奪われ、もはやスペースはないという状況になるだろう。

 当時(今から10年以上前になるが)コンサルという仕事に限界を感じた私は、ファーストリテイリングへの転職を考えていた。面接会場で、「君が考える我が社のビジョンを語ってくれ」と面接官(当時の重役)に問われ、「御社の強さは圧倒的。やがて世界一になるでしょう。しかし、クラス一の優等生は常に他の生徒の模範でならねばならない。そこで、私は御社こそ eファッション(当時は、エコロジーや人権対応のついては、すべてに eをつけることが主流だった)で、米国型の行き過ぎたキャピタリズムの弊害を解決し地球規模で人類を新たな幸せに誘う道程を示すべき」と述べた。そして「そんなものでメシが食えるか」と一笑に付された。私は、「カシミヤが成功したのだから夏にシルクを出せばよい」と(半ば適当に)、発言のアングルを変えたところその重役は「シルクはよい(売れる)かもしれないな」と言ったが、結局面接で落とされた。

 今、同じことを聞かれても同じように答えるだろうし、同社は「もうけられない話」にはのってこないのかもしれない。いや、ひょっとしたらいまは全く違う言葉が返ってくるかもしれないが、いまとなっては無意味な禅問答だ。

  さらに、柳井氏の事業会社ユニクロの社長交代も、ユニクロの「より大きく」というリニアな柳井イズムに自らブレーキを掛けるために行われたと考えると、すべてが綺麗につながってくる。

*本稿はすべて私個人の仮定における初期仮説であり、数店舗の店を見ただけのもので、なんのファクトによるものでもない。これで、ユニクロ:Cの全体像を世界の潮流の中のリポジショニングという観点から見れば見えない景色も見えてくるというものだ。

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

株式会社FRI & Company ltd..代表(2023年8月1日に社名を河合拓コンサルティング株式会社より変更)Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。最近ではAI企業、金管楽器メーカー、中国企業などのスタートアップ企業のIPO支援などアパレル産業以外にクライアントは広がっている。座右の銘は生涯現役。現在は自費で大学院で経営学の、独学で英語の学び直しを行っている。
著作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送サテライトTV」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議にたびたび出席し産業政策を提出。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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