無印良品の一部となる三菱商事ファッションとユニクロ:Cの成功が意味することとは

河合 拓 (代表)
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ザ・勝ち組商社、三菱商事の口癖とは

 

 それとは真逆なのが三菱商事だ。三菱商事の人の話を聞くと、決まった口癖に出くわす。それは、「それは商社がやる仕事ですか?」だ。商社マンという、おそらく世界でも類を見ない知能集団、ビジネスのプロフェッショナルの高給を維持するためのエコノミクスから出てくる言葉である。むろん、何段もレベルが低い相手からの一方的な命令に従う屈辱もあるだろう。

 よく誤解している人がいるが、伊藤忠商事しかり、三菱商事しかりと、中間流通のなかのごくわずかな勝ち組は、収益のほとんどは製造委託事業、いわゆるOEMから得ていない。伊藤忠はブランドビジネスから、そして、三菱商事は投資事業から得ている。

 私は財閥系商社の経理部の中に潜入したことがあるが、社員一人ひとりがPLBSCFを持ち、財務部は為替リスクさえ持っている。全ての在庫は個人に紐付き、在庫管理、与信管理、売り掛け管理という商社三種の神器といわれるリスクヘッジ手法は、時に専門家以上の能力を持っていた。

 このレベルの仕事と生産性が達成できなければ全社員に手厚い報酬を生涯にわたり約束することなどできないからだ。これは、人員数にあわせてアメーバのように課が雨後の竹の子のようにでき、「Better than nothing」を理由に「足し算思考」で、部や課ができる低レベルの商社とはレベルが違う。

 当時から、三菱商事は「想定競合先は戦略コンサル会社」と位置づけ、「自分たちは顧客の課題解決をすることで高い生産性を上げる」と社内に発破を掛けていた。だから私の書籍を読み同社出身のOBやファンドから何度も声がかかった。その意味で、私は三菱商事生活産業部門には大変お世話になった。

「商社機能の内製化」本当の意味とは

 私自身がオーガナイズした商社とアパレルの統合戦略もある。それは、以前紹介した「デジタルSPA」もさることながら、仕入構造改革といって、自社調達にこだわりをもっていた三越伊勢丹を垂直統合させる戦略だ。私は精緻な分析を行い、商社の行く末と百貨店グループの「いとへん」のMDに占める総割合を試算し、今の商社の無数に亘る営業活動のほとんどを捨てても、百貨店グループ全体の仕事のいとへんの仕事をダイレクトに受け取ることで、百貨店からみた仕入れ価格とリードタイムで約30%のコストダウンを実現することが理論値としてでてきたのである。

  戦略思考が高い企業や組織は、「選択と集中」がみごとだ。特に「意思決定の要諦は捨てること」だ。逆に、捨てることができないから決めることもできないのが足し算思考の悪いところだ。

 私は20年も前から「商社はいつか外される、ならば、外される側で粘るより外す側に立ち、外された側は違うビジネスをすればよい」と思っていたし今もその考えは変わらない。だから、OEM以外の提案も幾つもやってきたし、国レベルの話に発展したものもある。どうにもならねば、自分が商社に転職し、内部から変えようかとも思い某商社の会長に直談判してこともある。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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