EC時代にスクロールとベルーナだけ好調 生き残るカタログ通販、死ぬカタログ通販
売上1位ベルーナの独自性と苦境に立つ千趣会
次にベルーナだ。この企業の戦略は非常におもしろい。「通販=安もの」という当時の常識の中で、百貨店商材(現在、50代〜60代が中心購買層)向けに、通販企業としては比較的高価な価格をつけ、また、カタログも1つの商品で1ページをほとんど使っていた。通販企業の主要KPIであるページ効率(1ページがどのぐらいの売上を生み出したか)を無視し、イメージを前面に押し出す贅沢な仕様となっている。このあたりの、バランスが非常に上手だなと感じるのと同時に、おそらく、相当腕の立つマーケターがいて、Acquisitionをうまくやっているのだろうと思う。ただ、利益率がスクロールよりも3割低く収益性ではまだ伸びしろがある。この価格をどれだけ維持できるかが問題だろう。
そして、千趣会だ。この企業は在庫過多で一時はREVIC という半官半民のファンドの傘下にはいり再建を行った。本社売却がキャッシュフローに大きく寄与し、オペレーションも驚くほど綺麗になり奇跡のV次回復を行った。しかし、喜びも束の間、栄養ドリンクがきれたごとく、「あっという間にもとにもどった」ようだ。ぜひ、IR資料をよくみてもらいたい。同社はブライダル事業を投資ファンドのCLSAに売却した。
したがって、22年12月期のPLは千趣会のビジネスそのものである。PLを見ると、まず販管費が361億円。これに対して、BS上のキャッシュと売掛金を合わせると約110億円。在庫が68億円強で、通販の場合約2倍が売上となるため137億円となり、キャッシュ・売掛金と合算すると247億円となり固定費をまかなえないことになる。キャッシュ、売掛金のところに未収入金約51億円を全額入れたとしても161億円で、総額では298億円、やはり販管費をまかえない。
というのは、一般的なアパレルの在庫回転率は年間2.5回転なのでキャッシュフローを読み間違えると、かなり危険になる。同社は、赤字の原因をシステムトラブルと述べているが、赤字は恒常的に続いておりワンタイムではないことも分かる。さらに、気になるのが外部出店費用が増加していることだ。これは、自社で業務ができないためSPAから苦肉の策で売上を優先する場合に発生する。上記は、あくまでもざっと見た初期仮説であることをお断りしたい。同社は、金融機関との間に総額100億円のコミットメントライン契約を締結して運転資金は十分に確保しており、人事組織も手をつけるということなので、きっとこの難局を乗り切ってくれるだろうと願うばかりだ。
知っている人は知っていると思うが、私の第2作、ベストセラーになった「生き残るアパレル死ぬアパレル」の冒頭のメッセージは同社の取締役(当時)に書いていただいたものだ。それだけに、私は千趣会に対して熱い思い入れがある。