アパレルは「丸ごと消滅する」産業か? 世界のDX化に乗り切れないリアルな理由と本質的解決策

河合 拓
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産業界はSDGs(持続可能な開発目標)、サステナブル一色だが、今まで成し遂げられなかったことが急にできるようになるわけではない。一見、鎮火したように見える『DX(デジタル・トランスフォーメーション)ブーム』だが、アパレル業界を取り巻く厳しい環境下において、DXを成功に導くことが企業ひいては産業そのものの生き残りを左右するだろう。
アパレル企業は、2021年の春商戦は緊急事態宣言で、夏商戦は間断になされた宣言延長で、トータル春夏では足腰が立たないほどの余剰在庫と含み損失を抱え、6月なのに秋までのセールが始まっている。これを、業務を知らない輩は「大量生産のせいだ」と的外れなことを言い出すだろう。このことはやがて大きな問題として企業にのしかかってくるものと思われる。アパレル産業はどのようにDXと向き合い、自社の課題解決を進めていけばよいのか。今日は、デジタル改革の最前線で戦っている富士通系戦略コンサルファームRidgelinez株式会社の西田武志プリンシパルとの対談を通し、アパレル企業のDXの本質について議論をしていきたい。

metamorworks/istock
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企業はデータの持つ意味にもっと深く向き合うべき

河合 本日は対談形式での議論にお付き合い下さり、ありがとうございます。まずは、西田さんがアパレル企業のDXを通して最も重要だと思うテーマから議論をしてゆきましょう。

西田 結論を言うと「データは汚れている」ということです。店頭データ、生産・調達、在庫情報などを結果データといいますが、仮説・検証型業務の計画した値、非財務データ、店頭を含むビッグデータなどは正確性が疑わしいということです。必要なデータを正しく集めるプラットフォームと、業務手順、役割分担などチェンジマジメント(企業の変革支援)を併せて考える必要があるわけです。現場任せにしていてはこの問題はクリアできません。入力専門のセンターを作ってでも実施すべきなのです。

河合 いきなり、ガツンときましたね。確かに、アパレル業界のバリューチェーンを見ていると我が社のデータの精度にはこだわるくせに、前工程(川上)には極めていい加減なデータ、手書きデータなどを平気で渡しています。以前、アパレル、商社とこの問題について議論したとき、AI』の文字認識技術をつかって精度を上げられないか、と相談されました。技術的には可能なのでしょうが、私はこうした対処療法に反対です。理想的と言われるかもしれませんが、きちんとバリューチェーン全体が話し合い、各工程が標準化されたデータの受け渡しを行うべきです。私は、6年前、経済産業省にこの問題を政策として提出したことがあります。

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