アパレルは「丸ごと消滅する」産業か? 世界のDX化に乗り切れないリアルな理由と本質的解決策

河合 拓
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重要なデータの収集と仮説の立案に社内の従業員の英知を集める

metamorworks/istock
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西田 もうひとつ重要な課題テーマを問題提起します。それは、「DXで生産性を上げ、空いた時間でクリエイティブな仕事をする」という企業は多いのですが、これを実際に行っている企業はそう多くありません。そのような発想すらしていない会社が多いのも現実です。人こそが資産のアパレル・ファッション業界で最もないがしろにされているのは、皮肉にも「人」なのです。

河合 デジタルの歴史を私のキャリアに沿って言うと、初期的にはマテハンのような力仕事をロボットにさせる世界を Step 1とすると、Step 2OAなどといって、いわゆる企業の中のファックスやコピーなどが入ってきた時代。そして、Step 3IT化、PCが全社員に配られ、コミュニケーション革命が起きた。企業でいえばERPなど企業内データの一元管理。そして、Step 4がデジタル化。いわゆるAIやロボティクス、クラウドと言ったハイテク技術ですね。

 こうした流れを見ていると、システムというのは力仕事からホワイトカラーの領域、そして判断業務にまで入ってきたと言えます。勝てないといわれていた将棋などでも人間がAIに負ける、このような現状に産業界はなんともいえない不気味さと神秘性を感じ、『ボタンを押せば、クリエーションもやってくれないの?』と簡単に聞くようになった。パイソン(AI開発言語)まで書けるようになる必要は無いですが、その技術の得意領域と限界を知りながら、全く新しい事業モデルを白紙の紙に描く力が求められるほど、デジタルは高度業務に近づいてきたというのは事実だと思います。

DXITは道具ではなくビジネスの中心であるというトップの意識が重要

西田 アパレル・ファッション業界に限らず、DXを実施する際の重要なポイントを議論しましょう。いくつかの論点を上げさせてください。

 先ほど仰られたとおり、かつて情報システムは業務を合理的に運営するための道具でした。驚くような量のデータを一瞬に処理をするなどです。しかし、今や消費者がひとり一台スマホを持っています。結果、消費者にもたらされる経済利益は、パーソナライズされた情報収集環境や購買意欲の喚起、接客の最適化、注文・受け取り・決済です。これは情報システムがサービス提供の重要な武器となったということですね。チェンジリーダー (変革を志すリーダー)は、これらにもっと真剣に向き合う必要があります

河合 そうですね、これも100%同意です。

 一昔前の企業が情報を掴み消費者に一方向に投げる時代は終わり、今は消費者と企業が同じぐらいの情報量を持ち得ています。もし、企業がさらに進化すれば必ず新しい技術やアプリケーションが生まれ、消費者の利便性を高めるようなシーソーゲームが起きているように思います。

 したがって企業は消費者より質、量ともに上から目線で消費者と接するような関係はもはや成立し得ないわけです。消費者の買い物行動を見ていれば、ZOZOBUYMAなどでポチるなど、世界でもっとも安価で良いものを比較購買できる。私は、ECが企業の優勝劣敗をよりハイコントラストにしたのではないかという仮説をもっています。そうでなければ世界中の先進国でアパレル企業の入れ替わりが同時多発的に起きているという説明にならない。DEATH BY AMAZONなどと言っていますが、聞けば破綻の原因はみな違う。

 そこに共通項を見いだせば、本日のテーマである「データの質と量」、そしてその「データの企業と消費者の持ち分率の関係」と「EC」の3つでしか説明がつかないのです。もちろんコロナ禍という環境もありますが。

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