ライフウェアは完成形に!+Jが可能にするユニクロ全方位戦略のすごさ
真逆の特徴と強みを持つ 東のオンワード、西のワールド
日本では敵無しといわれた当時の繊維商社住金物産にアパレルの雄であるワールドがアプローチしてきたのは必然だった。そして、ニット担当は私だった。ワールドと樫山の両者の物作りを経験した私は、オンワード樫山とワールドは全く企業文化が異なっていたことに驚いた。
ワールドは、今で言うタイムベース理論、つまり、時間優位の戦略を取っていた。そして、それは、日本中を巻き込んだ、QRAIという活動(いわゆるサプライチェーンマネジメントを業界全体で最適化しようという動き)に発展し、当時、米GAPが採用し大成功したQR (Quick response) 、そして、SPA ビジネスモデルへと発展していった。
ワールドの戦略は、オンワード樫山とは真逆だった。極めて高いイタリアの素材を生地糸でわざわざ日本に空輸して輸入し、長野県の染色工場に生地糸(染める前の生の糸)でストックする。そして、週末販売データを見て、信じられないスピードで素材を染色し日本の工場で編み上げて納品していった。しかも当時はパソコンなどなかったので、すべては手書きの資料と紙のファイルで行ったのである。
ワールドの手法は、やがて、Piece dyed (製品染め)と呼ばれる染色技術に発展し、アジアで、生地糸製品編みを行い、生機の製品を染色工場で染めるなど、ダイナミックな商社の動きと連動しながら利益をあげていったのである。当時の、ワールドのプロパー消化率は80%を超えているといわれていたが、分析すべきは投入量に対する正規価格の販売割合でなく、いわゆるQRによる機会ロス(欠品)の撲滅である。当時、同社は欠品をデータ化し、その機会損失を埋めることは、不確実性の高い企画力を高める以上に効果があると考えていた。
当然、世界最適調達を行っているオンワード樫山とは製品納品価格は天と地ほど違うわけだが、彼らは、今で言うキャッシュフロー経営と欠品撲滅(当時は、余剰在庫以上に機会ロス最小化のほうが重大だと思われていた)を狙っていた。
オンワード樫山の仕事をしていたときは、「時間」より「コスト」だったのが、ワールドは「コスト」より「時間」を重視していた。両者は、アプローチが異なるだけで狙いは同じ、成長市場の利益最大化であった。
さらに、ワールドはSPARKSという業界を変える戦略をとる。当時、スーパーやコンビニでは常識だった「52週MD」をアパレルに採用し、商品回転率や交差比率など独自のKPIを開発し、アパレル業界のデファクトスタンダードと呼ばれるUVASシステム(アパレルのMD分析パッケージ)を作り上げ、そのライセンスを一般公開したのである。そして、日本中のアパレルがこのUVASを採用していった。
今、ワールドはクラウド技術を使ったデジタル・プラットフォーム戦略を打ち出している。同社にはこうした過去の成功事例があるからこそ、一見大きな業態転換に見える業務改革を受け入れる素地があるわけだ。連日のように報道される同社のリストラやリテール事業からの撤退も、私は事業モデルの転換戦略(物販からプラットフォーム事業への転換)ではないかと見ている。
逆に、オンワードは、もともと企画力で成長してきた会社だ。ワールドのようにプラットフォームだけを提供する会社にはなり得ない。同じアパレル企業といっても、その出自や企業文化によって得手不得手がある。
早くも3刷決定!河合拓氏の新刊
「生き残るアパレル 死ぬアパレル」好評発売中!
アパレル、小売、企業再建に携わる人の新しい教科書!購入は下記リンクから。
河合拓のアパレル改造論2021 の新着記事
-
2022/01/04
Z世代の衝撃#4 Z世代を追えば敗北必至!取るべきトーキョー・ショールーム・シティ戦略とは -
2021/12/28
Z世代の衝撃#3 既存アパレルが古着を売っても失敗する明確な理由とは -
2021/12/22
インフルエンサー・プラットフォーマー「Tokyo girls market」驚異の戦略とは -
2021/12/21
プラットフォーマー起因の歪な過剰生産が生み出す巨大ビジネス、SheinとShoichi -
2021/12/14
Z世代の衝撃#1 ライブコマースで「インフルエンサー・マーケティング」が失敗する衝撃的理由 -
2021/12/07
TOKYO BASEがZ世代から支持される理由と東京がショールーム都市になる衝撃
この連載の一覧はこちら [56記事]
ファーストリテイリング(ユニクロ)の記事ランキング
- 2024-11-13値上げしたのにアパレル業界が利益に結び付かない2つの理由
- 2024-11-07同じ低価格なのに…GUがしまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由_過去反響シリーズ
- 2023-08-28ユニクロと東レとのサステナブルな関係から生まれたリサイクルダウン
- 2024-09-03アローズにビームス…セレクトショップの未来とめざすべき新ビジネスとは
- 2021-03-05ビジネスは「一勝九敗」 ファーストリテイリングを世界的大企業に導いた“柳井哲学”
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2024-11-16ファストリが3兆円突破!24年8月期決算で語られた今後の成長戦略
- 2021-05-04大丸、三越伊勢丹…誰も語れない百貨店分析 政府の施策が百貨店を殺す「本質的理由」
- 2022-01-11ZARAとユニクロだけがなぜ余剰在庫を撲滅できるのか?本人達も気づいていないメカニズムとは
- 2024-08-27好調アパレルに異変?在庫回転率悪化の複数要因とファストリ改善の理由
関連記事ランキング
- 2024-11-05ユニクロがZOZOに出店しない当然の理由と今後のECモールとの付き合い方
- 2024-11-19ユニクロ、開始から7年で明らかになった有明プロジェクトのいまとすごい成果
- 2024-11-12アパレルは「個人売買」「古着」が、今後驚くほど拡大する理由
- 2024-11-26イタリア繊維産業に学ぶ、高くても売れるビジネスの秘密とは 染めと売り方が段違い
- 2024-11-13値上げしたのにアパレル業界が利益に結び付かない2つの理由
- 2024-12-03ユニクロ柳井会長がウイグル綿花不使用発言に至った理由と影響、その複雑な背景とは
- 2024-09-17ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェイス依存めざす理由と新戦略の評価
- 2024-11-07同じ低価格なのに…GUがしまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由_過去反響シリーズ
- 2021-11-23ついに最終章!ユニクロのプレミアムブランド「+J」とは結局何だったのか?
- 2023-08-08EC時代にスクロールとベルーナだけ好調 生き残るカタログ通販、死ぬカタログ通販
関連キーワードの記事を探す
ユニクロ柳井会長がウイグル綿花不使用発言に至った理由と影響、その複雑な背景とは
イタリア繊維産業に学ぶ、高くても売れるビジネスの秘密とは 染めと売り方が段違い
ファストリが3兆円突破!24年8月期決算で語られた今後の成長戦略
ファストリが3兆円突破!24年8月期決算で語られた今後の成長戦略
「亜熱帯化」でも売上を伸ばすユニクロ、伸び悩むアパレルとの違いとは
ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
ユニクロ柳井会長がウイグル綿花不使用発言に至った理由と影響、その複雑な背景とは
イタリア繊維産業に学ぶ、高くても売れるビジネスの秘密とは 染めと売り方が段違い
あなたの会社はいくら?いよいよ始まるアパレル大買収時代と正しいデューデリジェンスの手法
なぜあなたの会社は利益が出ないのか? 間違ったKPIが企業を窮地に追い込む実態
全産業中ワースト2位の不都合な真実、アパレル業界の環境破壊と人権問題を解決する方法