従来型のカイゼンは限界に……賃上げをめざすアパレルチェーンが急ぐべき構造改革の要諦

2025/04/21 05:35
小島健輔 (小島ファッションマーケッティング代表)
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若年労働人口減少とインフレによる賃金上昇と人手不足がチェーンストア経営を圧迫しているが、労働生産性の上昇という原資がなければ「賃上げ」は利益を食い潰すだけだ。では、どうすれば労働生産性を上昇させることができるのか。従来の事業構造と運営の枠内で「カイゼン」を続けても限界があるから、枠組みを変えてブレイクスルーする必要がある。

ここ数年、男性から女性へ、壮年から若年への所得移転が進んだものの、賃金上昇率は低水準で、実質賃金は着実に目減りしている(写真は筆者撮影)

賃金構造基本統計に見る若年・女性の賃金上昇

 2002年以来、停滞が続いていた賃金水準も22年から物価とともに上向いたが、厚生労働省の毎月勤労統計によれば、22年は現金給与が1.9%伸びても物価が3.0%上昇して実質は1.1%のマイナス。23年も現金給与が1.3%伸びても物価は3.8%も上昇して実質は2.5%のマイナス、24年は賃上げ機運が高まって現金給与が2.9%も伸びたが物価も3.2%上昇し、実質は0.2%減と3年連続(物価が0.3%低下した21年を除けば6年連続)の実質減少となった。とは言っても、世代や男女によって賃金の伸びは異なり、若年・女性労働者の賃金上昇は全体平均を抜け出して加速している。

 厚生労働省の賃金構造基本統計によれば、23年は男性平均が2.6%伸び、20〜24才は4.0%/25〜29才は3.3%と平均を上回った。だが、女性平均は1.4%しか伸びず、10代は5.6%と大きく上回っても25〜29才は2.1%、30〜34才は2.2%と僅かに上回るにとどまった。

 それが24年になると状況が一変し、女性の伸びが4.8%と男性の3.5%を凌駕した。男性では10代が6.5%、30〜34才が4.7%、45〜49才が4.8%と全体平均を上回っても20代が平均を下回るなど、若年世代全体が押し上げられたわけではなかったが、女性では20〜24歳、25〜29歳が5.0%、35〜39才が5.3%、45〜49才が5.8%と大きく伸び、その間の世代も全体平均の4.8%に前後するなど、20代から40代まで幅広く賃金が伸びた。

 結果、男女間賃金格差も75.8%と前年から1.0ポイント、2001年からは10.5ポイント縮まり、男性から女性へ、壮年から若年へ所得移転が進んだ。とは言っても、この3年間の賃金上昇率は男女計で7.5%、男性6.7%、女性8.6%でもインフレ(総合物価)は10.4%におよぶから、実質賃金の目減りには変わりない。

 この2年間のインフレに抗して実質賃金をプラスにするには年率5.07%、女性や新卒者ではそれ以上の賃上げが必要だったが、事業構造も運営システムも変えないままの「カイゼン」では限界は目に見えている。ならば、どんな手を打っていけばよいのだろうか。

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記事執筆者

小島健輔 / 小島ファッションマーケッティング 代表

小島ファッションマーケティング代表取締役。洋装店に生まれ、幼少期からアパレルの世界に馴染み、業界の栄枯盛衰を見てきた流通ストラテジスト。マーケティングやマーチャンダイジング、店舗運営やロジスティクスからOMOまで精通したアーキテクト。

著書は『見えるマーチャンダイジング』から近著の『アパレルの終焉と再生』まで十余冊。

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