参入多いが難しいアパレルの多角化戦略、成功の秘訣は?

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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服というモノは十分持っている
だから、モノからコトへ

onurdongel/istock
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 「モノ」から「コト」へ、という言葉が業界を駆け巡ったのは10年ほど前だった。現代人が服という「モノ」をすでに多く所有し、これ以上は買い替え需要以外で「モノ」として買うことは少なくなるから、欲しくなるようなシーン(コト)を提案してお客さまに買ってもらおうということだ。あるいは、服というモノではなく、楽しいシーンなどのコトを販売する事業に進出しよう、という意味合いで合った。

 しかし、産業界は言葉の本当の意味を理解せず、単にテナントミックスを「服だけ」から、カフェやシューズなどの売れているテナントを同じフロアに置いただけというのがほとんどだった。アパレル店舗にしても、単に服以外の雑貨の売上構成比を増やしただけだった。

 とくに旧態化している小売は、「小売イコール完成品を売るだけ」に相変わらずとどまり、商品政策(MD)を広げることができなかった。だから、フロア構成を変えただけにとどまったのである。これではとても「モノからコトへ」とはいえない。

 本連載で繰り返し説明しているようにアパレルビジネスは非常に特殊で、いわゆる「衰退期」というものがない。服以外の商品は、例えば、「カメラ」というニーズはデジカメからスマホに変わるし、レコードがCD、そしてオンラインストリーミングへとビジネスそのものが大きく変化するのに、服は外圧による劇的な変化がない。何があっても、われわれは服を着続けなければならないからだ。だから服のサプライヤーは毎年新しいものを考え、出し続けるわけだ。それゆえ、これまで「服」というモノに固執しても商売を続けることができたのである。

 しかし、冒頭で述べたように、これ以上たくさんの服はいらない、と思っている人が多い。そうしたなかでアパレル企業が成長をするには、「多角化」は一つの重要な切り口になる。

 前置きが長くなったが、そういうわけで今回はアパレル企業の多角化戦略について考えてみたい。

 

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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